ロンドン到着、千尋との再会
『まもなく、ロンドン空港に着陸します。シートベルトを着けて下さい』
アナウンスが鳴り、私の意識は覚醒した。
最初の三時間は起きていたが、残りの五時間くらいは寝てしまっていた。
「ね、寝ちゃった・・・・・・」
因みにこのアナウンスにも意味がある。
飛行機は離着陸の時、ジェットコースターに乗っている時並みの衝撃に襲われるのだ。
故にシートベルトを着けなければ、とても耐えられるものではない。
「皆、そろそろシートベルトを着けた方が良いよ」
と、皆に言うが。
真宙と秀未はまだ眠っている。
そして、空良に至っては。
「よ、酔った・・・・・・」
と、この通り死んでいる。
「大丈夫かなあ、このメンバー」
飛行機を出た後、入国審査を受け。
私達はタクシー乗り場にいた。
目的地は、先輩達がライブをやるという、ロイヤル・アルバート・ホールという会場の最寄りのホテルだ。
「さて、どう乗るかな」
タクシーは二人までしか乗ることが出来ない。
故に二人ずつに分けるしかないのだが。
「まあ、悩む必要は無いか」
秀未と真宙のペアは確実だ。
私は空良を連れて、タクシーに乗車した。
それから一時間。
飛行機旅による疲れを様々な方法で休める私達。
「わ、私飛行機ダメかも知れんわ姉さん・・・・・・」
空良は、飛行機酔いしたらしく、こうなっている。
枕に頭を伏せ、ガクガクと震えている。
「飛行機慣れていないと酔う人もたまにいるから大丈夫よ」
「私、ああいうの苦手・・・・・・」
空良は両親がおらず貧乏な暮らしを、私の妹になる前はしていたらしいから、まあ慣れる筈もないだろう。
「美味しかった~」
真宙はロンドン空港でも何か買ったらしく、まだ食べている。
イギリス名物のお菓子らしい。
「よ、よく食べるね」
「折角の海外旅行ですから、これくらい食べないと」
てか大阪の空港でも色々買ってたじゃん・・・・・・。
秀未は相変わらず竹刀の手入れだ。
「・・・・・・何か?」
「な、何でもないよ」
秀未に睨みつけられ、私は慌てて返す。
まだ秀未との会話の仕方が分からないというのも事実だ。
だが最近は、
「秀未先輩、今日も竹刀の手入れですか?
ロンドンに来てもするなんて、マメですね」
「そうだ。毎日手入れをしなければ竹刀が汚れてしまうからな。
兄上も私と同じようにやっているぞ」
空良が秀未との話し方をマスターしつつある。
この前はいがみ合っていたにも関わらずだ。
「あの会話術、真似したいなあ」
コミュ症の私も斯くありたいものだ。
「ちょっと出かけてくるね」
私は皆にそう告げ、靴を履いた。
ライブの日は明後日で、次の日に会うことになっている為、今日は暇なのだ。
英語で六階と表示されている場所から、グラウンドフロアと書かれている所までエレベーターで降り、外へ。
因みに、イギリスでは二階を一階と数えるらしい。
つまり私達が宿泊している所は、六階と呼ばれているが、実際には七階なのだ。
近くのタクシー乗り場の椅子に座り、タクシーが来るのを待つ。
その時だ。
「Excuse me. Are you from japan?」
流暢な――まあ当地の人なのだろうから当たり前だが、英語で話しかけられる。
多分出身は日本かどうかを聞いているのだろう。
「ええええ、あのえええと」
私は圧倒的にコミュ力が欠けている。
それは昔から変わっておらず、それも友達が少なかった理由だ。
しかも外国人が相手となると厄介だ。
ブラジルでは、必ず近くに通訳がいたから、ブラジル人のチームメイトとの会話は何とかなっていたのだが。
もし私が聞き間違えて居たら、とんでもないことになってしまうのでは・・・・・・。
「これでも一応、中学時代英検三級受かったし、いけるかな!
いえ、イエスアイアム!」
やばい、思い切り片言だよ。
質問した人顔固まってるよ。
どうしたら良いんだあ。
「あ、アイムフロムジャパン」
「o……oh……」
多分質問しちゃダメだったかなとか思ってるよねその顔。
やめてえ、私が悪いみたいになっちゃうからあ!
そうだ、私からも質問しよう。
「Wh…Where do you live?」
良かったあ、今度は何とか英語っぽく発音出来たよ。
「I live in Holloway!」
ちゃんと受け答えしてくれた。
良かった良かった。
その外国人は、それからすぐにやってきたタクシーに乗って行っていき。
私はその次に乗車した。
ここでも、質問は英語だ。
「Where are you going?」
「I want to go to Big Ben」
何とかビッグベンに行きたいという旨を伝え、タクシーの運転手が走行を開始した。
途中ラジオも流してくれたが、分からない英語もあり内容が理解出来ず、そのままビッグベンに到達した。
「わあ・・・・・・」
何と言うか、凄いと思った。
写真で見るのとは違う。
その大きさを如実に感じることが出来た。
映像で見るスクールアイドルより、生で見るスクールアイドルの方が、迫力があるのと同じ理屈だ。
「良いですよね、ビッグベン」
突然聞こえた女の声。
しかも日本語の、聞き覚えのある声だ。
私が振り向くと、そこにいたのは。
「久しぶりですね、寿奈さん」
千尋さんだ。
だが今日は少し違う。
いつもはツインテールにしている黒髪を、そのまま下ろしている。
元々大人びた顔つきをしている為、凄く似合っているように感じた。
服装もそれに合わせて、クリーム色のチェスターコートを羽織っている。
彼女は確か大学一年生と聞いた。
もう新年度からは二年生故、この一年で二十歳になる。
それを意識しての服装と髪型なのだろう。
「千尋さん、大人っぽい服装ですね」
少し微笑む千尋。
「ありがとうございます。
私も今年で成人ですから、大人っぽい服装にしなくては思いまして。
寿奈さんは、ご卒業おめでとうございます。
あと、優勝も」
「ありがとうございます」
私も笑顔で、それに答える。
「ところで、何故ロンドンに?」
「真宙が優勝して、とある事情でロンドンにいるって知って、追いかけてきたんですよ」
相変わらず、妹想いの姉だ。
「妹想いなんですね」
少し落ち込んだような顔を見せる千尋さん。
「いえいえ、でも真宙の方が、私の事好きな筈なんです。
今では、私の事嫌っていると思いますけど」
「そんなこと、ないと思いますよ」
千尋さんが顔を上げる。
「真宙ちゃんは、千尋さんに元気を出して欲しかったんですよ。
だから、私よりも一生懸命に練習しているように見えました。
誰よりもスクールアイドルが好きで、故に誰よりも頑張る。
それが、真宙ちゃんなんです」
「なるほど、貴女はもしかしたら、一番真宙を理解出来ているかも知れませんね」
千尋さんは微笑んでいた。
思えば、千尋さんは私に対する接し方が変わったように感じた。
最初は、私の事を自分より下の存在に見ていたように思える。
だがそれは、私達が順位を上げ、グループとしての質を上げる度に変わった。
今では、こうやって対等に話せている。
グループは違うのに、ライバルではない。
もう既に、友達のような関係になれていた。
「友達のような関係、ではないですよ。
友達です」
「・・・・・・!」
私が知らない間に口走ったのか、それとも千尋さんが私の心を読んだのか、千尋がそう答えたことに、私は驚いた。
私の周りは、いつも私を驚かせてくれる。
「そう言えば千尋さん、これから先輩達に会うつもりなんですが、一緒に行きませんか?」
「え、良いんですか?」
「大丈夫ですよ。自分で言いましたよね、もう私達は友達だって。
だから、友達の先輩に会いに行くだけですよ」
千尋さんは、少し考えたが。
次の瞬間には、笑顔でこう答えた。
「はい!」




