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今日からアイドルを始めたい!  作者: 心夜@カクヨムに移行
ファイナルライブ編 杉谷寿奈よ、永遠なれ!
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最後の物語のプロローグ!

三月一日。

 今日は、今日は特別な日。

 入学式と同じくらい、いや入学式以上に。

 三年一組の教室。つまり自分のクラスの、自分の席に座り、一人で黒板を見ていた。

 そこには、生徒会が書いたと思しき大きな『卒業おめでとう!』の文字がある。

 まだ、私は信じることが出来なかった。

 自分が卒業するという事を、はっきり分かることが出来ない。

「高校生活、案外短かったな・・・・・・」

 そう、短かった。

 楽しくて、楽しくて。

 だから、短く感じたのだろう。

 同じ学年に友達など一人もいなかったが、部活の皆は私を好きでいてくれた。

 それだけで嬉しい。

 ・・・・・・。

 この後の卒業式で、本当に終わりなんだ。

 私はスクールアイドルだった。

 だけど、別に学校で有名になれたわけではない。

 優勝しても、特に何も起こらなか――

 

「――寿奈、ちょっと来て」

 急に聞こえたのは、名も知らないクラスメートの声。

 少し不安を感じながら、私はそのまま立ち上がり、彼女のあとを追う。

 そのままクラスの外に出る。

 すると――

「寿奈、優勝おめでとう!」

 クラッカーの音と共に、クラスメートがそう叫んだ。

 その内の一人が、私に歩み寄り、肩を掴んで言う。

「私達、実は密かに応援していたんだよ」

「でも寿奈ってば、私達にちっとも構ってくれないから、この日に驚かせようと思ったのよ」

「どう、して・・・・・?」

 私はしばらく、その言葉を発した後固まった。

 勿論、気付いてなどいなかった。

 私は過去、勝ち過ぎと敗北の両方を味わい、友人を無くしている。

 もう同年代の友人など作る気も失せていたというのに。

「全く、アンタは独りよがりなのよ。

少しは人を頼ったり、話しかけたりしなさいよ・・・・・ってもう卒業なんだよね私達」

「皆・・・・・・ありがとね」

 自然に、言葉が出た。

 泣きそうだった、嬉しさで。

 だけど、ここでは泣けない。

「さあ、寿奈には寿奈の本当の仲間と一緒に泣いて欲しいからな。

卒業式行こう!」

「うん!」

 

 なんてことの無い、簡単な式だ。

 名前を呼ばれ、卒業証書を受け取り、席に戻る。

 それだけの、簡単な卒業式、だと思っていた。

 そんな卒業式の途中、私は呼ばれた。

「在校生への歌、卒業生代表・杉谷寿奈さん。

壇上へお願いします」

 私はそのまま、証書を置いて立ち上がる。

 壇上まで静かに歩き、マイクの前に立つ。

 そこに準備されていた台本を、私は手に取って読み始める。

「在校生の皆さん。

今日を以て、私達三年生は卒業します。

これからは、次の新入生の見本となるような、上級生となって下さい。

そして、私杉谷寿奈は『Rhododendron(ロードデンドロン)』も卒業します。

旅立つ前に、私はこの歌を送ります」

 

 未来への扉 作詞 松野心夜 作曲 なし

歌 杉谷寿奈 with 〇×女子三年生


僕の心を映した空の下 悲しそうに光る朝陽をただ見ていたよ

だけど 信じてるよ

そこにある扉抜けた先に 明日はあるんだと


未来への扉を 開けようよ

怖いこと なんてないよ

きっと 素敵な出会いがある筈だから


ほら前を見ようよ

涙を拭って見ようよ

きっと 僕らの未来は明るい筈だから


桜の道が伸びた空の下 役目を終え散る桜をただ見ていたよ

だけど 信じてるよ

これからの未来乗り越えた先に 君はいるんだと


未来への扉を 開けようよ

不安なんて あるわけがない

きっと 僕らはまた会える筈だから


ほら駆け出してみよ

涙が吹き飛ぶようにさ

きっと 僕らの未来に君はいるんだから


未来への扉を 開けようよ

怖いこと なんてないよ

きっと 素敵な出会いがある筈だから


ほら前を見ようよ

涙を拭って見ようよ

きっと 僕らの未来は明るい筈だから

 

 卒業式は、あっと言う間に終わり。

 その足で私は、部室に向かった。

 一足先に部室で待機していた後輩達が、クラッカーを引いて出迎える。

「寿奈先輩! ご卒業、おめでとうございます!」

 真宙は笑顔でそう言った。

「ありがとう!」

 

 パーティは二時間続き、よく食べ、よく笑い、よく話した後、私が口を開く。

「皆、ちょっと良いかな」

「はい?」

「ん?」

 

 私は、今の空良との関係を話した。

 空良は既に、私の妹となっていることを。

「そうですか・・・・・・。こうなったら、それも祝いましょう!」

 真宙が、ガッツポーズをしながらそう言った。

 それから、少しの準備時間の後。

 

 何故か、結婚式風の舞台が準備され、私と空良は並んでそこに立たされた。

 仲人の如く、養子縁組の申請書を持って真宙が言う。

「姉、寿奈。姉として、今まで以上に素晴らしい人間になることを誓いますか?」

「結婚式か何かなのコレ?」

「一度やってみたかったんですよねー! それより返事お願いします!」

「あ、うん。誓う」

 真宙が微笑み、空良の方を向く。

 少し空良が怯えるが、すぐに普段の顔をした。

「妹、空良。妹として、姉を敬い、杉谷家の人間として生きることを誓いますか?」

「え、はい先輩」

「そうそう! それじゃあ最後に――――

「あぁ、誓いのキスなら却下だよ? 結婚じゃないし、そもそも女の子同士だし」

「しょぼーん・・・・・・」

 え、そんなにさせたかったの?

「まあ、とにかく。これで正式な姉妹ですね、先輩」

 満面の笑みで、そう言う真宙。

「ははは・・・・・・」

 私はそれに苦笑していた。

 

◇◇◇

 

 楽しい時間は、やはりあっという間に過ぎてしまった。

 後輩達に先に帰るように言われ、少し申し訳ない気がしたが、ゆっくりと校門から外に出ようとしていた。

 その前に、振り向いて校舎を見る。

 三年前、私はスクールアイドルと出会った。

 そして、色々な事を経験した。

 沢山泣いた、沢山怒った、沢山落ち込んだ、沢山笑った――楽しかった。

「やっぱり、信じられないな」

 ここで、本当に終わっちゃうのかな。

 って、何を今更考えているのだろう。

 スクールアイドルが学校卒業と共に終わることは、宿命なのだから。

 だから、これで終わりだ。

 でも、なんでだろう。

 違う、気がしてきた。

 ・・・・・・。

『寿奈、アンタの話は、まだ終わってないからだよ。

もう、本当の最後の物語は始まってるよ』

 不意に聞こえたその声で。

 私は辺りを見回した。

 その声の正体が見つからないまま、私はいきなり現れた郵便局の人間に声を掛けられる。

「あの、杉谷寿奈さんですよね?」

「え、あ、はい」

「これ、大会実行委員会からの手紙です」

「あ、どうも」

 

◇◇◇

 

 学校の前に突如現れた郵便屋に渡された、大会の運営委員からの手紙。

 何かが始まりそうな予感にワクワクしながら、私は封筒のシールを剥がした。

 中に入っているのは、二枚の用紙。

 その一枚目のタイトルを見た瞬間、私の心は弾けそうになった。

『Rhododendron(ロードデンドロン)感謝祭』

 これだけでは、どういうものかは分からないが、恐らくこの下に詳細が書いてあるだろう、とタイトルより下の部分が見えるように、封筒から紙を取り出して読む。

『Rhododendron(ロードデンドロン)の皆さん。冬季大会では、優勝おめでとうございます。

さて、突然のお願いで誠に恐縮ですが、感謝祭を開催することになりました。

つきましては、皆さんにライブをやっていただきたいのです。

卒業式直後で、忙しい時期ではありますが、何卒よろしくお願いします』

 それは依頼状のようなもので、スケジュールや感謝祭が、何なのかというのは、二枚目の用紙に書いてあった。

 どうやら前年度から行われている企画で、春休みシーズンに、冬季大会優勝チームにライブをやってもらう、というものらしい。

 卒業生も参加出来るらしく、その年度に大会出場した三年生は勿論の事、それより前に卒業したメンバーでも参加出来るらしい。

 スケジュールを見てみると、五つ程、『曲』とだけ書かれた枠があり、そこにライブでやる曲名を書いて提出するそうだ。

 それを見て、私は思わず呟いた。

「面白そう」と。

 そのまま私は、部室に向かって駆け出していた。

 

 私の名前は、杉谷寿奈。

 スクールアイドル部所属の高校三年生。

 と言っても、もう高校は卒業してしまったが。

 それでも、感謝祭が終わるまではスクールアイドルとしての心構えは忘れないつもりだ。

 

「面白そうですね!」

 部室でその話をして、一番最初に食いついてきたのは真宙だ。

 まあ、予想はしていたけど。

 

 雪空真宙。

 二年生で、スクールアイドル部の副部長をしている。

 彼女の姉は、一年生の時のライバルチーム『Rabbitear(ラビッター) Iris(イリス)』の元リーダーの雪空千尋さん。

 姉を超えたいという理由で、わざわざ東京から滋賀に引っ越してきている。

 元気がよく、多分この中では一番スクールアイドルを愛していると言って良い。

 

「・・・・・・」

「秀未ちゃんは、どう思う?」

 相変わらず何も言わない秀未に、私は満面の笑みで話しかける。

「え・・・・・・まあ良いのではないか?」

 相変わらず、素直ではない反応だ。

 

 明智秀未。

 真宙と同じく、高校二年生。

 スクールアイドル部と共に、剣道部に所属しており、その腕前は全国レベル。

 神速を遥かに凌駕する太刀筋を持ち、自分より強い兄がいるらしい。

 勿論、踊りのキレも一流だ。

 いつも落ち着いており、あまり感情を表に出さない。

 

「また、面白そうなものを持ち込んできたね」

「でしょ!」

 空良はニヤリ、と笑った。

 

 杉谷空良――旧姓・黒野空良。

 スクールアイドル部唯一の一年生。

 スクールアイドルでありながら、駆け引きなどの頭脳戦を得意としている。

 今までは援助交際で生活するお金を稼いでいたが、今はそれをやめて、私の家で私の妹として暮らしている。

 

「さて、じゃあ早速練習を――

 そう言おうとした瞬間、携帯が鳴った。

 相手を見る。

「優先輩?」

 応答ボタンを押し、スマホのスピーカーを右耳にあてた。

『お、寿奈か。久しぶりだな』

 活発な声で言う優先輩に、私も自分なりの元気な声で返す。

「はい! お久しぶりです」

『運営委員からの手紙は届いたか?』

「え、はい」

 あれ、もしかして優先輩にも?

 私がそれを言葉に出して聞く前に、優先輩が言った。

『実は私の所にも届いてるぜ。

寿奈にも後で渡す、みたいな事を言ってたから、そろそろ来てるだろと思ってよ』

「なるほど」

『ところで寿奈、私達のライブ見に来ないか?

今、ロンドンにいるんだ』

「ロンドンにいるんですか!?」

 最近大学生のスクールアイドルがあるというのを知ったが、優先輩達がそれになっていたことは知らなかった。

『大学生になると、世界大会があってな。

今度決勝戦なんだ。良かったら見に来てくれよ。

仲間連れてきたら、練習も付き合うぜ。

そんじゃ』

 と軽く返事をし、通話が途切れた。

 私は携帯をスリープにしてから、皆に言う。

「皆、ロンドンに行かない?」

「良いですね、ロンドン!」

 やはりこれも、真宙が先に食いついてきた。

「真宙ちゃん、結構すぐに食いつくよね」

「だって、先輩達のライブですよ!

見に行きたいですよ!

皆も行きましょう!?」

「仕方ないな、真宙は。

そう思うだろ、空良」

「ええ」

意気投合する空良と秀未。

「あれ、空良ちゃんと秀未ちゃん、何時の間にあんなに仲良くなったんだろ」

「さて、かなり前から仲は良かったと思いますよ?」

「嘘を吐くな」

 呆れる秀未を見て、皆で笑った。

 

◇◇◇

 

 その日は、空良と二人でロンドン行きの準備をした。

 途中、親に呼ばれて晩御飯を食べることになり。

 飯を食べながら、テレビを見ていた。

 今やっているニュースは、音楽に関するものだ。

 タイトルは『皆が納得する音楽』。

「皆が納得する音楽かぁ・・・・・・」

 普通に考えれば、有り得ない話だ。

 好みの違いというのは、誰にでもある筈で、百人聞いて百人納得する音楽など作れる筈もない。

 中には音楽が嫌い、と言う人もいるのだから。

「空良ちゃんは、どう思う?」

「これだけじゃ、よく分からないね。

ちゃんと調べないと」

 落ち着いた声でそう返答する空良。

「でも、正直嫌な予感はするんですよね」


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