プロローグ
冬休みが終わり、私達の練習は更に厳しさを増した。
「寿奈、ワンテンポ早いよ」
服部先輩からの指摘。
これで今日は、十回目だ。
自分にはリズム感というものが無いのは、昔から分かっていた。
音ゲーの難しい方は昔からクリア出来ないし、譜面はどうしても暗記に頼ってしまう。
「・・・・・・」
もうダメだ、とこの時私は思った。
芽衣は、私の知る中で最強の敵だ。
私は彼女に勝ち、目を覚まさせなくてはならない。
その責任が、私にはある。
「そう落ち込まないで寿奈。まだ大会までは時間は沢山あるんだから」
赤いセミロングと瞳が特徴の先輩が、私の頭を撫でる。
私は瞼を閉じ、口を開く。
「先輩、私は今まで新体操でもサッカーでもミスを指摘されたことは無いんです。
教えて下さい。
私をこの世界に勧誘した理由を」
答えはすぐに返ってきた。
「私が誘った杉谷寿奈は、才能が足りない程度で恐れる弱い人じゃない。
諦めが悪くて、努力家で、そんな爆弾のような存在」
爆弾・・・・・・、私が?
「今はまだ、極められなくても良いよ。
寿奈が三年生になった時、きっと分かる。
自分は正しい選択をしたって」
「そう、ですか?」
「だから、ミスに落ち込まなくても良い。
寿奈は寿奈なりの方法で、自分が理想とするアイドルになれば良い。
私達は、最低限の事しかしない。
だって、最後に決めるのは自分だから」
そんな言葉を、ある時言ってくれた。
だけど、服部先輩はもうこの世にいない。
結局決められないまま、三年生になり。
それでも、私は理解出来なかった。
自分の理想とするアイドルとは何であるかが。
答えが見つからないまま、時間だけが過ぎ、気付けば卒業式の日になっていたのだ。
それが、私の現状だ。




