石楠花は再び咲く
東京の拘留所に入ってから四日が経過した。
今日は最終日で、すでに拘留所を出て、バスを待っているところだった。
バス停ではなく、近くの公園のベンチに座り。
普段、必要な時以外感情を表に出すまいと決めていたのだが、空良は俯いていた。
拘留所に入ったせいではない。
退部になったことが、やはり辛い。
あり得ない。そう思っていたのに、感情は違っていた。
あの時、秀未先輩にきちんと話していれば、未来は変わっただろうか。
色々、考えてしまっている。
「空良ちゃん」
不意に聞こえた、その声に空良は顔を上げる。
茶色の明るい髪に、黄色の二重瞼の整った容姿。
こげ茶の防寒着に身を包み、赤いスカートの下にはストッキングを穿いている。
「寿奈先輩」
空良は呟きながら立ち上がった。
だが寿奈を見て嬉しくなりそうな自分を抑えて、冷静に言う。
「今更私に何の用ですか? 退部届代わりのプレゼントなら既にした筈ですよ。
後は先輩達の力で、冬季大会に勝って
「いや、それは違うよ」
違う? 何が違うのだろうか。
「空良ちゃんも、『Rhododendron』のメンバーだよ。空良ちゃんがいなかったら、『Rhododendron』じゃないよ!」
「・・・・・・」
「だから、冬季大会もみんな一緒」
寿奈は空良の身体を強く抱きしめる。
感じた。
温かさを。人間の心の温かさを。
生まれて初めてだ。
「こんな私を、援助交際や犯罪に手を貸した私を。受け入れてくれますか?」
「うん、約束する。それに空良ちゃんに、もう辛いことはさせない」
え?
空良は目を大きく開けた。
「親とちょっと相談したんだ。部員で実は身寄りのない子がいて、助けてあげたいって言ったら。
そしたらね、OK貰えたんだ!」
「つまり?」
「一緒に暮らそう。私は四月からまた、ブラジルで女子サッカーの選手に戻ることになってるけど、たまに戻ってくる。
だから、今日から空良ちゃんは私の妹。私の家族だよ」
その言葉を聞いて、今まで自分の心を苦しめていた重りが外れた気がした。
「先輩――――いや、姉さん。ありがとう」
「うん、よろしくね」
久しぶりに両目から、涙が流れる感覚がした。
「さて、じゃあ行こうか」
「え?」
「これから始まるよ。冬季大会!
急ぎでの打ち合わせになっちゃうけど、でもきっと何とかなる!」
面白いけど、やっぱり無茶苦茶だ。
でも、何だろう。
今は笑って、こう答えられる。
「うん!」




