光の決意、空から託されるメッセージ
冬季大会までの期間が残り一週間の、休日の朝。
ベッドから起き上がり少し伸びをしてから、私は鏡に映る自分を一瞥する。
昨日とは少し違う、少し気合の入った顔。
昨日までの自分は、何と言うか死んだ顔をしていた。
何もやる事が無かったのだから。
だが、今日からは違う。
冬季大会が終わるまでは、私のスクールアイドルとしての人生は終わらない。
いや、終われない。
休日に練習時間がとれるのは、今日と明日が最後。
その上私は、退部期間中全く練習していない。
残された時間と、全身全霊で戦う。
それが、私の生き方。
気合を入れ直した私はまず、上下のパジャマを脱ぐ。
上にはブラウスを、下にはスカートを穿き、リボンを付ける。
ブラウスの上から、ブレザーを羽織り、ボタンを留めた。
「さあ、行こう」
荷物を持って、自分の扉を開けた。
◇◇◇
「おはよう!」
挨拶しながら、部室の扉を開ける。
だがいつも私が来ている時間、七時には誰もいない。
分かっていて、そう言いながら入ったのだが。
「やあ、おはようございます。杉谷寿奈先輩」
そこには、退部した筈の空良がいた。
「何の用?」
素っ気なくそう訊くと、空良は悪い笑みで答えた。
「何でもいいでしょう。私は少し、話をしにきたんです」
「悪いけど、君と話すことなんてない。
すぐに出て行
「これでもまだ何か言えますか?」
音も気配も無く。
空良は既に、ナイフを抜いて刃を私の首に当てていた。
刃が当たった所から、血が流れ出しているのを見ようとするが、空良の目つきがそれを許さない。
「良いから、大人しく私の話を聞いて下さい。
死にたくなかったら、ね」
仕方なく、こくりと頷く。
それを確認した空良が、口を開いた。
「良いですか、これは貴女方の命の為に言う最後の意見です。
冬季大会の会場――日本ライブドームには現在、数個の爆弾が設置されています。
しかも、それを冬季大会の日に爆破させるという知らせをある人物から聞きました。
これがどういうことか分かりますね?」
その犯人が何者なのか、そもそもその話が本当かどうかという問題もあるが。
確実に言えることは、その話が本当なら、爆発に巻き込まれて自分や部員が怪我、最悪の場合死ぬ可能性もあるのだ。
「これは冬季大会に出場するグループ――正確には貴女方以外全員が知っている事実です」
「それを聞いて、君を信用するとでも思うの?」
私の問いかけに嗤う空良。
「それならそれで結構です。皆さんが爆発に巻き込まれて痛い目を見たり、死んだりするだけです」
「わ、分かった」
私は、嫌々頷く。
「それから先輩、少し失礼します」
え、と私が呟くと同時に空良が思い切り私に抱き付いた。
右手のナイフを再び首に当て、左手を私のブレザーの内側ポケットに入れながら、耳元で囁く。
「これは冬季大会が終わるまで、絶対誰にも口外せず、見せず、そして読まないで下さい。
私にこれをやらせることを指示した“奴ら”にバレたら一大事です」
私を押し倒し、空良は何も言わずに去っていく。
ベランダから出ていった空良がどこに向かったのか、私は目だけを動かして見た。
赤い髪に、緑の瞳の、白い制服の少女。
真友がいる所に、向かうのが見えた。
◇◇◇
その出来事から数時間。
それの事を考えながらの練習だったが、特に支障も無くこなし、真宙と秀未が練習した所までをこなせるようになった。
だが、やはり同じ台詞がエコーのように何度も正確に繰り返された。
『これは冬季大会が終わるまで、絶対誰にも口外せず、見せず、そして読まないで下さい。
私にこれをやらせることを指示した“奴ら”にバレたら一大事です』
空良は、爆弾予告を見たから冬季大会出場を断念するように告げてきた。
そしてこの言葉を残し、真友と共にどこかへ行った。
この二つの出来事の意味を、ずっと考えていた。
空良は、彼女らと組んでいるように見えたが、あの手紙らしきものを自分に渡した所を見ると、組んでいるフリだけをしているように見えた。
「どうしたんですか、先輩?」
真宙が心配そうな顔で、私にそう尋ねる。
どうやら知らない内に険しい顔をしてしまっていたようだ。
仕方ない。手紙の事と真友の存在は伏せて、あの事だけ答えようと口を開く。
「実は、冬季大会会場を爆破するって予告があったって、朝空良ちゃんに言われてね。
それで少し考えていたんだよ」
そう答えたその時、真宙は少し怒った顔をした。
「寿奈先輩、空良の事をまだ信じているんですか?
それに、退部させたのは他でもない先輩じゃないですか。
あいつはただ、私達を負けさせたいだけなんですよ。
爆弾予告も、全部でっち上げですよ絶対」
「本当に、そうなのかな」
「そうですよ! 大体先輩は、人を信じすぎていると思いますよ?
しかもあんな事があっても、まだ空良を信じられるんですか?」
「いや、私は違うと思う。
私は空良ちゃんから、今までに無かった気持ちを感じたんだ。
自分達のチームを、本気で勝たせたいって気持ちを」
私の言う通り、あの時の空良は、いつもの空良と少し雰囲気が違った。
だから、それに賭けた。
あの空良なら、私は信じられると感じたから。
「本当に、信じる気ですか?」
「うん。誰にどんな風に言われても、私の考えは私だけのものだしね。
本気で勝ちたいと思うなら、疑って決めつけるばかりじゃダメだって気付いたから。
さあ、練習続けようか」
真宙は少し間をあけてから、元気よく答える。
「はいッ!」




