崩壊の始まり その一
私は今、病院のエレベーターの中にいた。
別に私が病気やケガをしたわけではない。
気を失った秀未が入院しているのだ。
ピンポンという音と共に扉が開き、秀未のいる部屋に向かう。
『五〇七』という部屋番号の下に『明智秀未』と入院者の名前。
真っ黒な板に、首から提げたカードキーを翳すと、右に向かって扉が自動でスライドする。
そこには既に、双眸から涙を流しながらパイプ椅子に座る真宙がいた。
その隣にあるパイプ椅子に座って、今も眠る少女の顔を見る。
頭は包帯で巻かれ、顔はまるで死人のように無表情で、口には酸素を送る為のマスクが着けられていた。
「秀未ちゃん・・・・・・」
「寿奈先輩・・・・・・。私は秀未ちゃんにこんなことをした人を許せません・・・・・・。
一体誰が・・・・・・誰がこんなことをしたんですか・・・・・・?」
嗚咽混じりで隣に座る真宙が、私に訊く。
「私が一年の時にも、服部先輩は同じように公園で殺された。だけど芽衣はもういない・・・・・・」
その先は言わない。この事件の犯人が誰であれ、もう自分から部員を巻き込まないと誓っているのだ。
真友の事は伏せ、私は偽りの答えを述べた。
「残念だけど、私じゃ秀未ちゃんを倒した犯人は分からない」
せめて一人で、犯人を捜す為に。
「先輩、すみません・・・・・・。
暫く、一人にして下さい」
涙を拭いながら、真宙はそう口にする。
「うん」
勿論拒否する理由は無い。
病院だから、犯人は何も出来ない筈。
私はそのまま、病室をあとにした。
◇◇◇
再び自転車で十分を費やし、学校に到着し。
部屋の扉を開けると、空良が踊りの練習をしているところだった。
しかし、電気は点けていない。
扉付近のスイッチをオンにすると、部屋の電灯が点く。
それに気付いた空良が振り向き、私に声を掛けた。
「あ、寿奈先輩。どこに行ってたんですか?」
「ちょっと病院に。一人で練習、やってたんだね」
「もうすぐ大会ですからね。当たり前ですよ」
「そっか・・・・・・」
空良はまだ知らないようだった。真宙も実際、私にしか教えておらず、あとは自分で情報を手にした人しか知らない、と思っている。
でも――空良には教えた方が・・・・・・。
「空良ちゃん、実は秀未ちゃんが――――
「――――秀未先輩、御気の毒ですよね。
まさか最強の剣道部員があんな簡単に・・・・・・」
「うん・・・・・・」
「先輩、それでは私は用事があるのでこれにて」
「あ、うん」
前から気になっていたことがある。
空良は毎回こう用件を伝えた後、どこで何をしているんだろうと。
部の長となるのに必要なのは、他の部員の状況を把握しておくこと。それが琴実先輩や服部先輩からの教えだ。
服部先輩も、私のプライバシーなどお構いなしで秘密を暴き、芽衣に殺されることを分かっていて調査をした。
――今度は、私が覗く番だよ。
私はゆっくりと、空良に近付き始めた。




