空良と秀未
年が明け、一月の後半。
冬季大会まで三週間となり、練習が更にハードなものになった頃。
体力の無さで昔イジられた事もあったが、それなりに体力もつき、空良はそんな練習に耐えられるようになっていた。
「さて、今日はこんなものかな。
じゃあ、お疲れ様!」
寿奈が汗を拭いながら言う。
空良はそれを聞いてから、バッグを持って部室を出る。
そのまま家に帰り、援交相手との待ち合わせ場所に向かおうとしていたが。
帰る途中、秀未に止められた。
空良は公園にて、彼女と相対した。
「空良、お前私達に何か隠していないか?」
気付いていたか・・・・・・。
だが動揺する必要は無い。どうせバレるとは思っていたのだ。
「何故今更気付いたんですかねぇ。人の気配を感じ取り、超人的な戦闘力を誇る秀未先輩でも、私に秘密があることを暴くのには時間が掛かりましたか」
「何を隠している」
唐突にそう聞かれて、心で少し焦るが、落ち着いて冷静に答える。
「やだなぁ先輩、それに答えてしまってはつまらないで
「真剣に答えろ!!」
流石におふざけが過ぎたか。まあ良い。いくらでも手はある。
「だったらはっきり言いましょうか。私は信用出来ない人に秘密は打ち明けませんよ。
大体、私にどんな秘密があろうと先輩には関係ありませんよね?
違いますか?」
「・・・・・・それは」
「私が好きなわけでは無いでしょうに」
「・・・・・・私達は今年こそ勝たねばならない。
これまで貴様は何度己の都合で部活を早退した?」
秀未はそう言いながら、竹刀を取り出し構える。
「言い返せなくなった途端実力行使ですか。
全く、良いでしょう。私に参ったと言わせれば打ち明けますよ」
空良に戦闘力は無い。
だが相手の思考を読み、体力を削ることなら出来る。
まず秀未が繰り出したのは、跳躍してからの唐竹割り。
大きく避けようとはしない。相手は剣道で高い実力を持っている。
すぐに動きを変えるくらい、余裕だろう。
スッ――とコンマ四ミリ右にずれる。
左肩に当てるつもりだったのだろう。それだけで、秀未の竹刀は地面を割った。
その衝撃で吹き飛ばされることを予測し、バックステップ。
ここまでは予想通り。
別に思考を読むのに、相手の言葉はそれほど必要ない。
視線や微妙な動きを見れば、攻撃を避けるだけなら赤子の手を捻るようなものだ。
次いで秀未は突きを放ってきた。
勿論、これも予測済みだ。
空良の腹を突こうとしていた先端は、何もない空間を貫く。
攻撃の動作をしていた秀未を見ていた時、空良は心で笑っていた。
彼女が焦りの表情を見せていたからだ。
一見して分かるものではないが、目つきはいつもの冷静さを失っていたし、冷や汗をかいていた。
これなら、倒せるかも知れない。
秀未の方を向く。彼女は再び突きをしていた。
空良は少し躱してから、右手で竹刀を掴む。
摩擦による痛みも感じたが、些細なものだ。
竹刀を抜こうとする秀未の腹に蹴りを入れ、仰向けに倒す。
「こんなものか・・・・・・。貴女の負けです、先輩」
空良は全力で秀未の頭に竹刀を振り下ろした。




