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今日からアイドルを始めたい!  作者: 心夜@カクヨムに移行
第十五章 十月・十一月&十二月編 秋季大会編
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姉と妹

『滋賀県立〇×女子高等学校』――――。

 学校は、良くも悪くも平凡そのもの。

 だが、その学校の名はほぼ全国に通っていると言って良い。

 ここはスクールアイドル『Rhododendron(ロードデンドロン)』が通う学校なのだから。

 彼女らの人気は、かなり高い。

 昨年は最下位だったにも関わらず、今年は春季と夏季でかなり順位を上げている。

 秋季での活躍によっては、決勝戦に出場する可能性が高いチームだ。

 彼女らが強い理由は、そのチームのメンバーの一人にある。

 杉谷寿奈――――『Rhododendron(ロードデンドロン)』のリーダーだ。

 元々弱小チームに過ぎなかった『Rhododendron(ロードデンドロン)』だが、彼女の存在によって、チームは大きく変わった。

 他のアイドルには出来ない、アクロバットかつ可憐な動きを、歌いながら行うという技を持つ彼女は、アイドル界の革命児と呼ばれている程だ。

 そんな少女の知り合いが、今校門前に立つ彼女である。

 雪空千尋。

 元『Rabbitear(ラビッター) Iris(イリス)』のリーダーで、現在大学一年生。

 目的は二つある。その内の一つが、今の『Rhododendron(ロードデンドロン)』を見物することだ。

 

『Rhododendron(ロードデンドロン)』は普段、一階の部室で練習している。

 千尋は遠くから眉を潜めて、練習を覗き始めた。

 今は寿奈が、新しいアクロバット技に挑戦しているところらしく、寿奈以外のメンバーは離れて見ていた。

 その中には勿論、千尋の妹の真宙もいる。

「真宙・・・・・・」

 真宙――昔は姉である自分を何よりも尊敬してくれていた妹。

Rabbitear(ラビッター) Iris(イリス)』が無敗じゃなくなっても、懸命に戦い続ける自分を――褒めてくれていた妹。

 だけど、そんな日々は何時までも続かなかった。

 正子の死と、寿奈の離脱を知り、千尋はスクールアイドルをやめることを決めた。

 耐え難い喪失感と、正子を殺した誰かに対する怒りで、一時期千尋は全く笑う事が出来なかった。

 今もそうだ。笑い方を忘れてしまったように、上手く笑えない。

 そんな自分でも、真宙は自分を受け入れてくれると信じていた。

 しかし真宙は、千尋が離脱することを聞いた瞬間、激しく怒り、その次の月には滋賀へ行き、自分には一切連絡しなかったのだ。

 もう一つここに来た目的は、真宙と仲直りする為。

 あの頃の二人に、戻りたいからである。

 

「行くよ~ッ!!」

 寿奈はそう叫ぶと同時に、技を開始した。

 まず、両掌を高く掲げる。

 次に、四回ほど前方転回し、両足で着地。

 そこから、大きく後ろに飛び、宙返り。

 最後に、再び両足で着地。

 合計四過程のアクロバット技だ。

 真宙と黒髪の少女が拍手する。

 寿奈は照れ臭そうにしていた。

 そんな時だ。

 無反応だったもう一人の黒髪が振り向いて、千尋と目が合う。

「そこのお前、いるのはとっくにバレているぞ」

「え、あ、ごめん」

 と反射的に謝ってしまった。

 

◇◇◇

 

「そ、そんなわけでお久しぶりです寿奈さん」

「私も千尋さんとまた会えて嬉しいです」

 取り敢えず不快な気分にさせなくて良かった、と千尋は胸を撫で下ろしたが。

 肝心の妹は、ご機嫌斜めのようで、一人だけ別の方向を向いていた。

「ところで、今日はいきなりどうしたんですか?」

「今の『Rhododendron(ロードデンドロン)』を見に来ましたわ。

あと、久しぶりに妹に会いたいと思いまして」

「そうですか、どうぞごゆっくり

 

「出てって」

 

 寿奈の言葉を封じたのは、やはり真宙だ。

 千尋の方に向き直り、少し歩み寄ってから口を開く。

「お姉ちゃん、ちょっと話があるから、私に着いてきてくれない?」

「う、うん」

 

◇◇◇

 

「なんでここに来たの?」

 部室から離れた部屋で、真宙が最初に発した言葉。

 千尋は黙って俯き、そして思った。

 やはりここに来たのは、間違っていたと。

「黙ってないで、答えてよ。

やっぱりお姉ちゃんは、そういう人なんだ。

正子さんが死んだくらいで、あの世界を捨ててしまったように。

私に怒られただけで、何も言えなくなるんだね」

 この言葉を聞いて、千尋は少し反省した。

 思えば昔、寿奈に掛けた言葉は、結局口だけになってしまったと。

 千尋はスクールアイドルとして、ライブをやり、練習をしている時間が一番生きていると感じると、一度言ったことがある。

 だが、正子の死や寿奈の一時離脱と同時にやめてしまうことを、あの時躊躇わなかった。

「わ、私は・・・・・・。この世界をどうでも良いだなんて思ったことは一度も無いわ。

真宙・・・・・・。私が真宙よりアイドルに憧れていたこと、知ってるでしょ?」

「嘘吐きッ!」

 真宙の絶叫が、部屋中に響いた。

「お姉ちゃんは、ただの嘘吐きだ。

いつも自分を強いように見せているけど、本当は弱いんだよ!!」

 バシンッ!という音が部屋中に響いた。

 紛れもなく、それは衝動的に放った平手打ちが真宙の頬に当たった音だ。

「そうだよ、私は弱いんだよ。

大切な人が死んだだけで、自分の好きなものを捨ててしまう弱虫だよ。

だから、真宙に謝りたかった」

「謝ったって、許すと思ってるの?」

 頬を押さえながら、真宙が言う。

 分かっていた。

 真宙はやると決めたらやる女だ。千尋みたいな人とは違う。

 あの日両親に、卒業するまで帰らないと言った約束を、今でも守り通しているくらいなのだから。

「思ってないよ。でも、これからも真宙の事は応援する。

それに、真宙の望み通り、真宙の前にも現れない

だから――――さよなら」

 そう言い残し、部屋の扉を開けようとしたその時。

「待って、お姉ちゃん」

 その声の後、千尋の背中に何かが張り付く感覚がした。

 真宙だ。

 真宙がギュッと閉じた双眸から涙を流して言う。

「大嫌い・・・・・・、お姉ちゃんなんて大嫌い・・・・・・」

 相変わらず頑固だな、と千尋は心で呟いた。

「私は大好きだよ。今も昔も。

約束を果たして、会いに来てね」

 その言葉に、返事は無かったが、涙を流して抱き付く真宙が言っている気がした。

『分かったよ、お姉ちゃん』と。


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