あと半年――寿奈の想い
私が目覚めたのは、朝六時だ。
まだ私以外は寝ているが、部室を出て一人屋上にいた。
夏だが、まだ涼しく、朝日の光を浴びているため丁度良い気温である。
こうして屋上に行くのは、一年の時の合宿以来だ。
鉄骨渡りでバランスを鍛える特訓というかなり無茶なものである。
何とかそれを乗り越えたが、あの時は先輩達がどれだけ凄いかを思い知った。
「・・・・・・あと、半年か」
思えば、高校生になってから色々な事があった。
スクールアイドルの世界を知り、その世界で戦い続けることの厳しさを知った。
様々な人と出会い、そして別れ。
今、私はここにいる。
「・・・・・・」
だがそれも、あと半年で終わり。
卒業してからもプロアイドルになるか、それ以外の道に進むのかは分からない。
琴美先輩も、きっと優先輩と道女先輩も、この瞬間を経験して卒業した。
皆で一つの目標に向かって楽しかったと感じる者もいれば、仲間との別れを惜しむ者もいただろう。
私は――――どうなんだろう。
勿論、先に挙げた二つの気持ちは私も感じている。
しかし、それだけなのだろうか。
私にとってスクールアイドルに対する気持ちは、その程度だったのだろうか。
「終わってほしくない・・・・・・」
仲間のことも、今までやってきたことも思い出にしか残らない。
人は出来事を記憶することは出来ても、記憶をもう一度経験することは出来ない。
過去へ行くことは、出来ないのだ。
きっと、この悩みは解決出来ないだろう。
だが人は――――それに慣れて、いつか大人になっていく。
高校生活という時間を思い出として記憶して、大人になっていく。
「考えたって、仕方ないか」
屋上で考え事を終えた後。
朝飯前に、少しランニングでもしようと校門近くで準備運動をしていたその時だ。
「お久しぶりですね、寿奈さん」
不意にかけられた声に、私は驚くが、声も口調も記憶にあるものだ。
黒のポニーテールに、紫の瞳の大人っぽい顔の女性。
「琴美先輩!!」
伸脚を止め、私は琴美先輩に歩み寄った。
「お元気でしたか?」
「はい、先輩!」
◇◇◇
「なるほど、あと半年でスクールアイドルでいられる時間が終わってしまうことに悩んでいるのですか」
「はい」
私の質問を復唱した後、琴美先輩は遠くを見た。
その時の顔は、一年の頃、先輩が今の私と同じ悩みを打ち明けた時に似ている。
「私は卒業と同時に、スクールアイドルの舞台からも卒業しました――。
――しかし、心ではまだ終わっていないつもりなんです」
「え?」
「今は多分、分からないと思います。
でも半年後、もし寿奈さん達が冬季大会のステージに立てた時。
きっと悩みは解決出来ます」
故に――――。
「全ての答えは――、最後のライブできっと出ると思います。
寿奈さん。これからも、私達と共に優勝を目指した過去、今の仲間と共に優勝を目指す今、全てを思い出ではなく、まだ続いてる出来事と思いながら生きて下さい。
そうすれば、未来の貴女自身が、きっと答えを出してくれる筈です」
琴美先輩と別れ、私は部室へと戻った。
今日の朝食は昨日のカレーの余りで、皆がそれぞれトッピングして食べている。
「あ、寿奈先輩! 早くしないと無くなりますよカレー!」
と言っている真宙がかなり早く食べ終わり、『お代わり!』とコールしつつご飯をよそいに行く。
「未来の私は、答えを出してくれる――か」
琴美先輩から教わったことを、私は口ずさみながら、自分の分をよそい始めた。
 




