九位のアイドル
「おおおおおおおおおおおおッ!」
私は真宙のアイデアに驚かされた。
なんせ私の中では、他のアイドルと交流しようという考えは微塵も無かったのだから。
しかし真宙のアイデアに驚かされるのもつかの間、秀未が反論した。
「だが真宙、会いに行くと言っても難しいぞ。
まず訊くが、どのグループに会うつもりなんだ?」
真宙は少し考え込む。
「あ、でもありますよ。候補が」
「本当か?」
「あるよ秀未ちゃん! 私、これでもアイドルの知り合いは多いからね」
へー、そっかぁと心で感心しながら私は訊いた。
「真宙ちゃん、例えば十位以内で知り合いいる?」
「十位以内なら、第九位のアイドル『ハイロガールズ』とかですね。
あのチームは先輩が一年の頃に、お姉ちゃんがライバル視していたチームの一つで、去年の決勝戦では三位だったんですよ」
「ほほう・・・・・・」
因みに真宙のお姉ちゃんとは、一年の時に一位を何度か争った千尋さんの事だ。
服部先輩の死後アイドルをやめ、今は平凡な大学生として生きているらしい。
「夏季大会の二週間前に会いに行きましょうよッ!
学校の場所は、確か群馬です」
◇◇◇
夜行バスに乗って八時間程度。
現在地は、群馬県太田市のバスターミナル。
ここから数分歩き、『私立九重学園高校』行きのバスに乗るという予定だ。
東京や滋賀と違い、群馬はそこまで人がいない。
今日が土曜日で、まだ午前八時ということを考えても、人が少ないのだ。
それでも私は、こういう所も悪くないなと感じている。
静かな雰囲気も好きだし、休むのが目的の旅行にはむしろ最適だ。
「うーん・・・・・・空気がおいしい」
どこか宿をとってゆっくり休んでから帰りたいな、という誘惑に脳内を支配されそうになるが、ブンブンと頭を振って本来の目的を思い出す。
「さて、バス乗り場に行かないと」
現在私達がいるのは、高速バスの乗り降り場の四番。
県内ローカルの乗降口は一、二番だ。
九重学園行きは二番。出発時間は十時半。
十時半より前のバスが七時半しかないのを見ると、ここはバスの乗り降りが大変だという印象を受ける。
「二時間半か・・・・・・」
バスターミナルの周囲には、暇を潰せる場所もないし、どうしたものか・・・・・・。
「あれ、寿奈さんですか?」
「ん?」
ふと掛けられた声に振り向くと、そこには探し人がいた。
真宙が言っていた通りの人物。
炎のような明るい朱色の髪に、同色の瞳の活発そうな顔。
まるで炎そのものである。
「えっと、君が――――――?」
「はい! 九重学園スクールアイドル『ハイロガールズ』のリーダー・暑井火奈乃です」
◇◇◇
火奈乃の教師の車に乗せてもらい、私達は九重学園に到着していた。
私立の学校にしてはかなり小さい気もしたが、向かう途中、教師がこんなことを言っていた。
『この学校には寺があり、毎日一時間、生徒は瞑想をする』と。
それもあってか、部活や勉強のレベルは、全国的に見ても高く、『フュルスティン』や『閃光』にも引けを取らないそうなのだ。
私達は今、その寺を見学している。
現在いるのは本堂。部屋の奥には、私には分からない何かの仏様の像がある。
本堂はそれなりに広く、瞑想の時間の為か、三百人程度は収容出来る広さだ。
体育館もあるが、体育以外で使うことは少なく、全校集会などでもこの本堂を使用するらしい。
「お気に召されましたか?」
いつの間にか後ろに立っていた火奈乃の仲間と思しき生徒が、盆に茶を満たした湯飲みを乗せて問う。
「ええ、まあ」
「それは大変光栄です♪」
微笑みながら、少女は茶を予め準備された卓袱台に置き、一礼して退出する。
湯飲みに満たされた茶を、座った後一口含み、ゆっくり喉に運んだ。
数分後、私は火奈乃と対面した。
お互い正座で、私は足が痛くなっていたが、火奈乃は平然としている。
「改めまして、私は『ハイロガールズ』のリーダー・暑井火奈乃です!」
「ど、どうも。『Rhododendron』の杉谷寿奈です」
他の三人も続く。
「雪空真宙ですッ!!」
「明智秀未だ」
「黒野空良だよ」
全員の自己紹介が終わってから、火奈乃が最初に口を開く。
「ところで皆さん。
今日は私達『ハイロガールズ』を見学しにきたということで、間違いありませんか?」
「あ、はい」
私の返答に対して爽やかな顔で、火奈乃が言う。
「まず質問なのですが、正直私達のライブを見て、どう思いましたか?」
私は前に見せてもらったライブを思い出しながら答えた。
「正直言って、私達とは迫力が違いました。
何と言うか、気合も違いましたし、でもその熱さの中にも、冷静さが垣間見えました。
はっきり言って、今の私達では貴女方には勝てないと思っています」
「なるほど。そう言っていただけると、練習の励みになります。
ですが寿奈さん。寿奈さん達のチームも中々でしたよ。
これからの特訓次第では、すぐに私達が追い抜かされてしまいそうです」
「そ、そうですか」
やっぱり、上のチームに褒めてもらえると嬉しいね。
「次は夏季大会で勝負しましょう!」
「望むところですッ!!」
私は火奈乃と、固く握手をした。




