大会前日 ~嬉しいと想う気持ち~
「いよいよ明日か・・・・・・」
土曜日。定期テストは終わったので、今日は明日の練習を思い切りやった。
現在時刻は午後六時。
既に帰宅した私は、家で休もうとしていたのだが、動きたくなって、近くの公園にサッカーボールを持って出かけていた。
古い中学時代のユニフォームを纏い、ボールの上に右足を乗せ、ゴールを正面に見据えている。
スクールアイドルでのことなど、悩みが出来たときには、いつもここに来ている。
ゴールを目指して走り、得意技たるアクロバットな動きからのシュートを決めた時には、悩んでいた時の自分なんてすっかり消えているのだ。
だが、今の悩みはそう簡単に消えるか分からなかった。
「恋の歌なんて初めての試みだけど、これで得票数稼げるのかな・・・・・・」
恋の歌は、初めての試みだ。
今までの自分達に無かったジャンル。
故に、練習は私が一年だった時以上に過酷なものとなっていた。
そして、明日に迫っている春季大会、そして夏季大会と秋季大会で、冬季大会――即ち決勝戦に進めるかどうかが決まる。
もし春季大会での得票数が少なすぎるという事態が起きれば、夏季大会や秋季大会での得票も少なくなると考えた方が良い。
だから、勝たなければ・・・・・・。
「でも、こんな気持ちでやるのは違うよね?」
私は服部先輩から教えてもらった。
楽しんで勝つことが大事だと。
不安でも、楽しむ方法を見つけなくてはならない。
あと数時間で。
「・・・・・・ッ!!」
私は声を出さずにドリブルを開始した。
頭の中で、敵のフォワードとミッドフィールダーが自分を阻むところを想像し、想像の敵の眼前にて、ボールを空へ蹴り上げる。
間を置かず自分も跳躍し、足でボールを受け取り、ミッドフィールダーの背後に着地。
そのまま、ディフェンダーの前でも、ボールを蹴り上げる。
今度はくるりと回転してから跳躍し、空中でオーバーヘッドキックを放つ。
ボールはそのまま一直線に落下し、ゴールネットへと突き刺さった。
着地も完璧にこなし、ゴールから転がって来たボールを拾う。
「これの動きの練習、何度やったのかな・・・・・・?」
この技を極めて以来、私はサッカーで負け知らずだった。
最初の内は、この危険な技の特訓で、何度も骨折しては入院していた。
中一の春季大会以前にこの技を完成させたときは、物凄くうれしかったのを、今でも思い出せる。
「ん・・・・・・? これだ。この気持ち・・・・・・」
何かを成し遂げて嬉しかった。
今まで出来なかったことや、試みたことが無かったことが出来て、嬉しかった。
それが、サッカーでもスクールアイドルでも私を強くしてくれた。
公園内にある一本の木。
だがただの木ではなく、まだ赤い血痕が残る木を見て、私は呟いた。
「貴女も、私達の為に命を懸けて皆を勝たせようとしてくれましたよね。
貴女が死ぬ時に、どんな気持ちだったかは分からないけど。
きっとしたことないことを、そこまで出来て嬉しかったんですよね?
先輩」




