惨敗でも、這い上がりたいから
「それでは皆さん、寿奈先輩は久しぶりだと思いますし、空良ちゃんに関しては完全に初めてだと思うので、改めてルールを説明します」
真宙がホワイトボードを黒い棒で指しながら言う。
あれ、でも・・・・・・。
私は真宙が説明を始める前に挙手し、質問した。
「え、私が一年の時とはルール違うの?」
「簡単に言いますと、寿奈先輩が一年生の時とはルールが違い、出場チームが増えすぎたんです。それで、大会のルールも去年から変更されたんです。
それも、今の私達にとってはかなり不利なルールに」
ごくり、と私は唾をのんだ。
もしかして、と私はもう一度別の質問をした。
「まさか、今の『Rhododendron』って・・・・・・」
「新ルールで、挑みましたが・・・・・・。結果は惨敗です。
優先輩は敗北したとき、寿奈先輩と服部先輩がいてくれればと拳を握って悔しそうにしてました」
先輩達でも勝てなかった新ルール、だと?
私は心して訊くことにした。
「では説明します。
まず、出場チームですが全部で百チームを超えています」
百チーム越え・・・・・・。
そりゃあ一筋縄じゃいかないわけだ。
「そして去年からのルールですが、大会ごとに優勝を決めません。
春季大会は七日間行われます。一つの地方につき、一日使って演目の様子をホームページにてライブ配信されます。例えば北海道と東北は一日目、関東は二日目という具合です。
そして、出場チームは好きな場所をステージに選ぶことが出来るんです。
投票方法は、最終日に公式ホームページにて気に入ったチーム一票に投票という仕組みになります。
ですが、それだけでは終わらないんです」
確かに、設定がこれだけだとどこかのアニメで見た事ある奴だな。
「まず投票なんですが、秋季大会まで同じように行います。
つまり、観客一人につき一大会につき一票――即ち合計三票を投票する権利があるわけなのです。
真の決勝戦が、冬季大会です。ですが冬季大会に参加出来るのは、得票数が五位以内のチームなんです」
投票ルールがかなり新しくされているな。
私が一年の時は、『国立 日本ライブドーム』と呼ばれる数年前まで『東京ドーム』と呼ばれていた建物を改修した場所で行い、投票権を持っているのも、現地に来ている観客のみだった。
そして大会ごとに優勝チームを決めていたのだが、今回私が挑もうとしている奴は違う。
三回ある票を得るチャンスで、票を稼げなければ、優勝への希望が断たれてしまう。
そんなハードな戦いだ。
だが。
「ルールを聞かされて思ったけど、具体的な順位って何位だったの?」
真宙に訊く。
「百チーム中、百位です。
優先輩は、やっぱり服部先輩の死と、寿奈先輩の離脱が一番このチームに対するダメージだったと言ってました。
だから、多分次も勝てそうもないんです・・・・・・」
優先輩。
死んだ服部先輩の代わりに、私を日本に帰す為にブラジルにまで来た。
勝つ為に。
私は、そんな優先輩の想いに答えなくてはならない。
服部先輩なら、こんな時なんて言うだろう。
ただ、勝とうなどとは言わないだろう。
あの人は、いつでもこう言っていた筈だ。
「それは違うよ。
勝てるかどうかじゃない。楽しんで勝ちに行くんだよ。
私は今年こそ皆に勝ちを掴んでもらう為に、優先輩に呼ばれた。
そして、私はこのスクールアイドルという舞台で戦えるのは今年が最後。
今年で私は三年生。つまり、あと一年で卒業しなければならないの」
卒業・・・・・・。
一年生の時は、そんなこと考えたことなかった。
中学生の時に、一度経験しているにも関わらず、卒業というものを、どこか遠い未来の出来事として見ていた。
だけど、今年になって卒業の重さに気付いた。
スクールアイドルとしていられるのも、今年が最後なんだ。
だから・・・・・・。
「去年最下位だったからと言って、皆に優勝を諦めてほしくないの。
楽しもうよ。勝ちに行くまでを。
きっとうまくいくッ!」
勝負は、勝つことが全てではない。
勝ちに行くまでの過程を楽しんだ者が真の勝者だと教えてくれた先輩がいた。
ここで落ち込んでいれば、多分必敗。
もし勝てたとしても、楽しまずに得た勝利は意味など無いのだから。
その言葉を聞いて真宙は笑顔でこう言った。
「先輩・・・・・・、やっぱり先輩は凄いです。
勝ちに行きましょう!」
真宙と握手を交わし、二人で笑った。
そして、ここから私にとっての最後の戦いが始まったのだ。




