決着
全てのライブが終わり、閉会式も終わった。
結果は、惨敗。
零票では無かったが。
私達、『Rhododendron』は三十チーム中三十位という大敗を期した。
「なんで・・・・・・。服部先輩・・・・・・」
他の三人が、落ち込んだ顔を見せる中。
私は心の中で、叫んだ。
――私達が努力して、服部先輩を喪ってッ! こんな結果・・・・・・こんな結果・・・・・・。ふざけないでよッ!
正直、声を出してまで言いたかったが。
私は、それを言い出すことは出来なかった。
――ねえ、服部先輩。私達、何がダメだったんですかね?
答えは無い。
元々答えなど期待してなかったが、より重い気持ちになった。
――先輩、すみません。琴美先輩を笑顔で卒業させることも、服部先輩の遺志に従う事も出来ませんでした。
先輩達は荷物を持って、控え室をあとにする。
私も後で行きますとだけ伝えてから、一つ息を吐いた。
◇◇◇
夜遅くなり、ファンがいなくなって、無人のライブドームで私と芽衣は二人で誰もいない所にいた。
バスが来るまであと一時間半しかない。
ここから駅まで四十五分は掛かる。それから十五分でバス停まで到着するとすれば、想いを伝えられる時間は十五分程度しかない。
少ない言葉で、彼女に自分の想っている事を伝えなければならない。
全部、伝えられるか?
やるしか、ないだろう。
まず私から、口を開いた。
「芽衣、まずは一位おめでとうと言わせてもらうわ」
そこに勿論、称賛の意味など無い。
芽衣もそれは気付いているだろうが、当然と言わんばかりに無表情で答える。
「貴女が祝うなんて、珍しいじゃない。
何か良い事でもあったの? 最下位に転落したくせに・・・・・・」
・・・・・・ッ。
ダメだ。まだ怒りを爆発させるな。
「芽衣。アンタは、楽しいと想えたの?」
芽衣は少しだけ微笑んでから答えた。
「ええ。貴女方を完膚なきまで叩きのめせたんですもの」
「人を殺してまで得た勝利がか?」
「・・・・・・」
芽衣は動揺しない。私には、芽衣の心を動かすなど無理なのだろうか。
「殺人によって得た勝利が楽しいなんて、アンタ何時から腐っていったの?」
「私は、勝つことこそが全てで。
その為に罪を犯す事を間違っているとは思わない。
勝てばその罪は消える」
消えるわけがない。
現に今、こうして彼女の罪に対して怒りを抑えている者が一人いるのだから。
「勝てば罪が消える?
勝ち過ぎは私に孤独を呼んだわ。勝ち過ぎも、また罪」
「そんなもの、貴女個人の意見よね? 貴女が同い年の他人となじめない故の」
「ならアンタの考えている事もそうだろう?」
「!?」
掛った・・・・・・。
さっきの、小学生時代に勝ち過ぎて孤独になったエピソード。
あれは、芽衣を罠にハメる為のモノ。
ここからは、私のターンだ。
「私やっぱり。勝利とか敗北とか、そんな言葉嫌いだわ。
勝利すればどんな罪でも許される? なら敗者はどうなるんだ」
「必要無い。敗者など、この世に存在するべきでは無いわ。
だから、私は消したの。敗北させても絶望しない存在を。
消してあげたの。私の思い通りにならないから。
貴女も愚かね。二人きりになるという事は、私にこの場で殺されても文句は無いという事よ?」
「それならそれでも良いわよ。どうせ私も大切な人を失って、その人の遺志を継げなかったんだから。
でも殺す前に、これだけは言わせて」
「何よ?」
「貴女は勝てば、罪は許されるって言ったよね。
なら、私が勝てば。私が勝っていたら、先輩を守れなかった罪は許されて先輩は帰ってきたの?」
「!?」
「気付いたでしょ。勝利なんてただの精神麻薬。
アンタこそ、そんなものの為に一人の人間の命を奪ったという事を、理解しなさい」
芽衣は動揺し始めた。
「違うッ! 誰もが勝利を求め、誰もが敗北を恐れるッ!
勝利が正しくないなど、有り得ないッ!」
「ならなんでアンタは先輩を殺したッ!?」
自分で思い通りにならなかったからと、芽衣は言った。
さっきの芽衣の発言との矛盾を、私は突いたのだ。
次の瞬間、私は自分でも信じられない速さで芽衣に接近し。
パチン、と彼女の顔にビンタした。
「なるほど。ついに言葉では私を倒せなくなってそこまでやるのね。
敗者のくせに」
「・・・・・・」
私は何も答えない。
やはり無理だったのだ、何をしてもこの少女の考えは変わらない。
最後まで彼女には勝てなかった。
先輩、ごめんなさい・・・・・・。
私はそのまま芽衣に背を向けて、そこをあとにした。




