託されたもの、失ったもの
数日前から、服部先輩の姿が見えなかった。
部活に来ていないわけではない。優先輩や道女先輩によると、学校に来ていないようなのだ。
電話やメッセージを送っても、返事が無い。
嫌な予感がした。
あの時から。ずっと。
先輩は最後に私と一緒に話した時、こう言い残して去った。
「ねえ、寿奈。
・・・・・・。私は言ったよね。
悩んでる時は、自分から言ってって。
だから、寿奈。私がいる以上は、あんたに辛い思いはさせないわ」
この台詞、意味があるようにしか思えないのだ。
まるで、もしかしたら今からでも自分はこの世からいなくなって、自分に辛い想いをさせてしまうかも知れない。だがもし、生きて帰れたら。
辛い想いは、させないと。
現に今、自分は辛い想いをしている。
という事は・・・・・・。
「先輩、まさかそんな。嘘ですよね?」
いや、服部先輩は部員全員を皆姉妹のように大切にしていた。
自分の命を捨てるような行動などとるわけが・・・・・・。
◇◇◇
四人のみでの練習の後、私は服部先輩の家に向かった。
もしかしたら、家にいるのかも知れない。
私達をビックリさせる為に、ふざけているのだという可能性をまだ捨てきれなかった。
だが反応は。
「寿奈さん、ですよね。正子なら、まだ帰ってきてないの。
三日も」
悪い予感は的中した。そして、次の瞬間。
私は最悪の真実を知ることとなった。
それは警察官の一人が、服部先輩の家に現れたことから始まった。
「失礼します。警察署の者ですが・・・・・・」
「はい」
先輩の母親が、それに応答する。
私はそれをドキドキしながら、聞いていた。
「服部正子さんの件についてなのですが、調査の結果――――」
嫌だ。言うな。
聞くな聞くな聞き流せ。
「彼女の遺体が、この近くで発見されました」
「何ですって!? ま、正子が死んだと?」
「はい・・・・・・」
その、事実に対する反論が。
「な、んだって?」
自分でも意識せずに、口から零れた。
「キミは、正子さんと同じ学校の人だよね。
残念だけど、正子さんは・・・・・・遺体で見つかったんだ」
「嘘吐かないでよッ!!」
気付けば、子供のように冷静さを失って私は吠えていた。
「はっきり言えよッ! それを嘘だってッ、あんたらが作り上げた作り話なんだってッ!」
無意識に、その警官の胸倉を掴み上げて吠えていた。
「残念だけど、本当です。
兎に角、落ち着いて下さい」
・・・・・・。
私は、その言葉を聞いて。
胸倉を掴み上げていた警官を解放し、ただ地面に崩れることしか出来なかった。
――――もう、自分もこの世から消えてしまいたい。
――――何も見たくない。何も聞きたくない。何も知らなくて良い。
夢であれば、覚めて欲しい。
私は、意識を手放し始めた。
薄れゆく意識の中で。
私は、見た。
警官が立ち去っていく姿を。
そして、その警官が少し笑っていたのを。




