親友と先輩
正月などが過ぎ、私達の練習は冬季大会に向け、本格的に動き出していた。
かなりハードな練習が続いたが、それに耐え。
もうそろそろ、二月。
私の、元親友――――そして今は宿敵の――――刹那芽衣と決着を付ける時間が近づいていた。
「芽衣・・・・・・」
思えば、いつから親友で、いつから敵になったのかさえ、明確には分からない。
ただ一つ覚えているのは、私が今の学校に行く事が分かった時には、彼女は私を見下すようになった。
それによって、私は自分より上の存在が増えることに恐怖し。
芽衣や、他の友人も遠ざけ。
元々上へ行き過ぎる事による孤独を知っていた私は、下に行くことによる孤独を知った。
更に下に行くことになっても恐れないように、自分と同年代の友人を作る事を拒んだ。
そして秋季大会で、再び勝たなければと焦りだしたが。
楽しむことが全て、そう気付いた私は、勝つことに拘るのをやめた。
だが、次はそうはいかない。
もう過去から逃げるわけにはいかない。芽衣に、自分の気持ちを分かってほしい。
勝つことが全てではないと。
「随分と必死ね。友人の目を覚まさせようなんて」
服部先輩の声。
「先輩・・・・・・」
「私は負けたら悔しいとは思うけど、怖いとは思わない。
だから芽衣にもきっと、負けたとしても、伝わることはあるわ」
「・・・・・・」
私は何も言わなかった。
自信が無い。勝つことは勿論、芽衣に想いを伝えることも。
「大丈夫よ。何とかなるわ」
「先輩が、そう言うなら・・・・・・」
先輩の言う事は、いつも自分の励みになっていた。
きっと今回も・・・・・・。
「ねえ、寿奈。
・・・・・・。私は言ったよね。
悩んでる時は、自分から言ってって。
だから、寿奈。私がいる以上は、あんたに辛い思いはさせないわ」
「先輩・・・・・・?」
◇◇◇
「へぇ、来たんだ」
正子は、視線の先にいる者にそう呟く。
長い黒髪と、紫の瞳の整った顔の少女に。
「よく見破ったわね。私の考えていた事。
底辺の存在にしては大したものじゃない」
「いや、あんたはそんな事考えている時点で底辺の存在よ。
なるほど。寿奈の証言と、私の調査で分かったけどね。
あんたが強い秘密」
芽衣は少し動揺したが、すぐに落ち着きを取り戻して訊く。
「どういう意味?」
「あんた、実力で勝つ時もあるみたいだけど、どうやらそうじゃない時もあったらしわね。
秋季大会の時は実力みたいだけど、多分他の勝利のいくつかは嘘偽りだ。
これ、何だか分かる?」
そう言って服部が取り出したのは、下剤だ。
「そ、それは・・・・・・」
「これ、あんたが落としたのを見つけたわ。
聞いた所によると、貴女が出るバスケの試合や試験での棄権原因の多くが、腹痛だったらしいわね」
「!?」
さて、ここで止め。
「私を大会前に棄権させようともしてたみたいだけど、これで無駄よ。
諦めなさい。私達は負けない。
寿奈に、あんたは今度こそ負ける」
「嘘、嘘だわ。
そんな筈無い。貴女如きに、私は止められない。勿論寿奈にも出来ない」
次は、何で来る気だ。
「貴女は、ここで私が止める。
『Rhododendron』に、勝利など無い。
消え失せなさいッ!」
そう言うと、芽衣は思い切り正子に駆け出してきた。
正子は、心で呟いた。
――――ごめん、寿奈。あんただけは、無事に――――。
芽衣が駆け出しながら取り出したナイフに気付く事が出来ず、腹にそれは突き刺さった。
遂に、今日からアイドルを始めたいの一年生編の最終章に入りました。
これからは、シリアスが続きます。




