優のジョギング
休みの日の練習。
「おはよッ!」
優先輩が整った八重歯を見せながら、到着と同時にVサインを見せた。
「あ、おはようございます優先輩・・・・・・。
それにしても、練習前に汗をかくなんて、何をしてきたんですか?」
息切れはしていないが、多少汗が出ている。
「あー、あれだ。
私いっつも、ジョギングしてから練習来てるんだよね。
ジョギングは良いよな、良い景色が沢山見られるし。
寿奈は、したことあるか?」
「私は、中学時代サッカー部でしたから、あまり練習や遊び以外で外出する体力的な余裕が無くて。でも今は、学校まで歩いて登校してますよ」
「じゃあ明日、私と一緒のコース歩いてみるか?
今日は私の家に泊まってけよ」
「え、良いんですか?
では、お言葉に甘えて」
◇◇◇
夕暮れの道を歩き、優先輩の家に到着した。
何ということはない、ごく普通の一軒家。二階建てだ。
優先輩は「ただいま」と言いながら家に入り、私も「お邪魔します」の言葉と共にドアを開けた。
玄関では、先輩の母らしき人物が立っていた。
先輩と同じ緑色の髪だが、体育会系の先輩と比べると、少し落ち着いた印象を受ける顔立ち。
優先輩はスポーツシューズを脱いでから、彼女に言う。
「あ、御袋紹介するよ。
私の後輩。ほら、自己紹介しろ」
「あ、初めまして。
杉谷寿奈と言います!」
先輩の母が微笑みながら口を開く。
「君が寿奈ちゃんね。優から話は聞いてるよ。
君が優達のグループに力を与えているとか何とか」
「いやいやそんな、大げさですよ」
なんか恥ずかしいな。
「夕飯なら準備したから、どうぞ召し上がって下さい」
「あ、いただきます!」
◇◇◇
そして次の日。
朝六時に起床し、私と優先輩は外に出た。
学校指定の白と深紅で構成されたジャージ姿で、まずは準備運動をする。
「じゃあ、行くぞ」
「はいッ!」
◇◇◇
走り始めてから三十分。
私達が辿り着いたのは、巨大な岩山だった。
舗装されておらず、登山しようにも道が無いのだが。
「さて寿奈、これを登って反対側に行くぞ」
「えッ!?」
何故ジョギングで某製薬会社のドリンクのCМのような事せにゃならんのか。
「ほら行くぞッ!」
優先輩は全速力で駆け出し、五メートル前で岩に向かって跳躍。
尖った部分を見つけるや否や、躊躇わずに右手でそれを掴み、まるで地面を這うように岩を掴んで登り始める。
「まあ、やるしか無いわね」
私は地道に、岩を掴んで登り始めた。
取り敢えず岩山を登り、頂上へと辿り着いた。
もうこの時点でかなりのスタミナを消費し、息が荒くなっていたが、優先輩はこの時点では汗しかかいてない。
なるほど、毎日これだけの事をしてから練習をしていれば自然に体力がつくわけだ。
とは言え、まずは反対側に下りる為に下山しなければならない。
どうするのだろうか。
「じゃあ、行くぞッ!」
優先輩は、思い切り駆け出した。
そのまま先輩は、不安定な岩の下り道を舗装された道路の上を走るが如く下山を開始。
転ぶ様子はおろか、転びそうな様子も見られない。
私はゆっくり慎重に下山し始めた。
このコースは、自分にはきついかも知れない。




