迷い
眼が覚めると、そこは病院だった。
腰の骨が痛い。右足も。
動かなければ。こうしている内にも、誰かに置いてかれてしまう。
そしたら、私の存在意義は消えてしまうのに・・・・・・。
医師の診断によると、私の背骨の一部にヒビが入り、右足は強打により骨折したらしい。
よって、秋季大会への出場不可能になることは無かったものの、二週間の入院をすることになってしまった。
そろそろ二年生が帰ってくるから、琴美先輩は心配無いが、私が抜けたことによって秋季大会の結果が悪くなってしまったらどうしよう、と病院の外の景色を見て思った。
芽衣のせいだ。
あいつのせいで、私の調子は今狂っている。
そんな、時だ。
意外な客が、私の所に現れた。
「寿奈、久しぶりね」
セミロングにツリ目が特徴の少女。閃光学園高校の制服に身を包んでいる。
「美里・・・・・・」
美里――私の中学時代の友人だ。サッカー部では、私と美里のツートップだったが、美里がフォワードとして点数を取ったことは・・・・・・というより、私が出ている試合ではほぼ私一人で何とかなっていたので、私しか印象に残っていない者や、自分の娘の活躍の場を奪われたと、彼女らの親から苦情が寄せられることもあったが。
一位は自分の特等席と信じていた私にとっては、後悔も反省も無かった。
椅子に座り、美里は口を開く。
「まだ一位でありたいとか思ってるの?」
「当たり前じゃない。私の存在価値は、勝ってでしか証明出来ない。
出来るなら一位を目指したい。敗北を許したら、私はどうなるのよ」
なら言う、と里美は息を吸う。
「閃光学園を抜けて、〇×女子高に行った貴女は既に一位を目指す資格なんて無いってね」
その言葉で。
揺れていた私の心は、更に壊れ始め。
「ねえ」
気づけば。
里美の胸倉を掴み上げていた。
「久しぶりの再会だと思ったらいきなり何? 中学時代に私に活躍の場を奪われたから嫉妬してるの? そんなことだけを言いに来たのなら、悪いけど帰ってくれないかな?」
「相変わらずね。自分より下の者と判断した奴には容赦ないんだから」
「それは違うわね美里。私が今見下してるのは、あんたたちだけ。
私が閃光学園でサッカーをするのをやめたとしても、あんたは私に勝てない。
自覚しなさい」
私は美里を解放し、自分の体はベッドの上のまま、床にたたきつけた。
「今日はもう帰りなさい。それ以上言うなら、私はあんたを潰す」
美里は言われた通り、立ち上がってから病室をあとにする。
私はその背中を、睨みつけていた。
◇◇◇
「寿奈」
その内、修学旅行から帰ってきた服部先輩も入室し、私は聞いた。
「先輩、勝つって何でしょうね?」
「え?」
いつもの先輩なら、こんな時ビシッと答えを出してくれるだろうと思っていたが。
今回は、先輩にも分からなかったらしい。
病室の窓から見える、空を。
私は、見ていた。




