過去
子供の頃から、自分は世界で一番だと思って育ってきた。
自分に勝てる者など無く、一位は自分の特等席で、自分以外の者が座って良い場所ではないと。
親に洗脳されたわけではない。
親はいつも、自分が今やっていることを楽しんでさえいれば、順位なんて気にしないと言っていた。
小学校の時、学年一位を連続で叩きだし。あらゆるスポーツで一位を取り続けた私。
そのまま親に、学園中学のみの入学を条件に、借金をして閃光学園に入学。
テストこそ中の中だったが、サッカー部では一年生にしてエースストライカーとなり、部やクラスでも人気者となった。
勉強は勝てない時があるかも知れないが、スポーツだけなら一位の座は自ずと自分の物になる。
そんな事を信じながら学園中学での生活を楽しんでいた私。
だが、現実はそう甘くなかった。
自分は体育祭の時、自分の親友に負けたのだ。
刹那芽衣という名の、本物の天才に。
スポーツ万能、学業優秀、容姿端麗。
彼女には何一つ勝てないまま終わり、こうして“普通”の舞台に戻ってきてしまった。
だが、そんな“普通”の舞台の者達を見て見下したことなど一度も無かった。
私は“普通”の舞台で、一位以外の順位を取ったし、自分よりも平凡な筈の先輩達が輝いて見えた。
そこで一度私は、自分に言い聞かせた筈なんだ。
もう結果に拘らない。一位は自分の特等席なんかじゃなく、努力して掴む方が楽しいんだと。
しかし、今日芽衣に会って。
再び自分の心は、揺れていた。
◇◇◇
帰宅後。
自分の家の庭にあるサッカーゴールから少し離れた所で、久しぶりに中学時代のユニフォームを着て、私はサッカーボールの上に足を乗せて立っていた。
夕食を食べた後なので、激しい動きは体に負担がかかりそうだが、少し走るだけなら今の自分でも余裕だ。
中学時代を思い出して。
私は左足で地を、右足でボールを軽く蹴り、ドリブルを開始した。
少し進んで、丁度敵のフォワードがいる辺りで、左足を使いボールを空に向かって蹴る。
同時に、両足で地を蹴り跳躍する。
ミッドフィールダーがいるラインも飛び越え、ディフェンスの前で素早くボールを今度は強く蹴り上げ、自分も跳躍。
くるりと天地を逆さにし、全力でオーバーヘッドキックを放とうとしたが。
――中学の時と比べて、随分動きのキレが落ちたわね。もし昔の私が見たら、失望するんじゃない?
「・・・・・・ッ」
最後の最後で集中を切らし、ボールはゴールポストに激突し、自分は地面に落下して腰を強打。
骨が砕ける音が、耳に響き。
意識が暗転した。




