過去との遭遇 寿奈に託された想い その二
練習が終わり、私は一人で帰宅路を歩いていた。
同学年の友人などいない為一人。琴美先輩と一緒に帰ろうと思ったが、先輩はまだ自主練習を続けるらしい。
既に日が暮れた道を歩くと、その途中大きめの校舎が建っているのが見えた。
中等部、高等部の校舎が設けられたその学校。
私の母校たる『閃光学園』。学園高校では、かつての私の友人達の多くが勉学に励んでいるだろう。
ただ、元親友を除いて。
彼女は私と違い、お金持ちで、閃光学園よりレベルが高い『私立フュルスティン女学院高校』へと転入してしまったのだ。
「寿奈!」
噂をすれば何とやら。聞き覚えのある声と共に、私の背中に向かって投げられたバスケットボールを足で受け止め、一度リフティングをしてから、足で受け止める。
ボールが飛んできた方向に振り返ると、白と赤で構成された『私立フュルスティン女学院高校』のセーラー服に身を包んだ茶髪ロングの少女が見えた。
「久しぶりね、寿奈」
「芽衣・・・・・・」
刹那芽衣。
私の元親友にして、元憧れの人。
「まだやめてなかったんだ、バスケ」
「やめるわけないじゃない。エースなんだし。
貴女はサッカーをやめてしまったようだけど」
「やめたわけじゃないよ。趣味では続けてる」
この少女、芽衣はとても頭が良い。
口喧嘩で勝てる自信など、微塵もない。
「テレビ見たわよ寿奈。貴女スクールアイドルを始めたらしいじゃない」
「見てたんだ。あんたらしくないわね。
私を見下しているんじゃなかったっけ?」
この瞬間、私は自分が動揺しているのを感じた。
ダメだダメだ。冷静になれ。
「見下しているからこそ、それを見て笑っているという可能性を考えないんだね?
軽業女王」
それは紛れもなく、私自身の仇名だ。
かつて、閃光学園中学女子サッカー部を優勝させたのは、私の強烈なシュートと、フィールド全てを活かしたプレーに他ならないのだから。
それが、私。
軽業女王、杉谷寿奈。
だが。
「それ、私が一番嫌いな仇名なんだけど」
「変わってないね。寿奈。
一つ言うわよ。スクールアイドルを始めたとしても、上級学校に行った私には勝てないわよ」
「もとよりアンタを倒すことを目指してないわよ」
私が言い返すと同時に、芽衣は長髪を翻しながら背を向けて歩き出す。
「それからもう一つ。君はその内、地獄を見ることになると思うわ」
その言葉の意味は分からなかったが。
嫌な予感がするのだけは、確かだった。
いつからだろう。
芽衣と私がここまで仲が悪くなったのは。
私は頭を素早く振って、無心になる為両頬を掌で叩く。
思い出したくない思い出に、蓋をする為に。
芽衣とは逆方向に歩き出し、少しだけ俯いた。




