合宿 その二
八月七日。
遂に合宿の日。朝七時に全員集合し、まずは基礎体力をつける為に校庭を五周――大体三キロくらいの距離を走っている。
「というか、よくグラウンド借りられましたね?」
「うん、今日と明日が陸上部休みだから丁度良かったよ。というか寿奈走るの速いな!」
まだ一コンマ五キロを五分で走っただけで、先輩達が遅いだけだと思うのだが・・・・・・。
私のスピードについて来られたのは、優先輩くらいだ。
「速くないよ、これが普通だぜ正子!」
一番遅いのは、道女先輩。
「き、きつい・・・・・・」
琴美先輩は、その隣で走っている。
「頑張ってください、伊賀崎さん!」
私と優先輩はその十分後にゴールし、道女先輩と琴美先輩はその四十分後にゴールした。
◇◇◇
数時間後。夕食前に一練習。
「じゃあ皆、夕食前に最後の練習するわよ」
屋上に来た私達に、服部先輩が言う。
「皆にやってもらうのは、鉄骨渡りよ!!」
そう言う先輩や、おー!!と叫ぶ皆に反して、死の恐怖、意味不明の連続でフリーズする私。
だが何とか言葉を発する。
「・・・・・・先輩、先輩は私達を殺す気ですか・・・・・・?」
その状況を受け入れることを拒否しようとする私に優先輩が、
「大丈夫よ寿奈、下にマット敷いてあるから」
「そういう問題じゃねーですよ!! 琴美先輩何か言ってやってください!!」
「いや、去年もやりましたよコレ」
琴美先輩が一番常識的だと信じていた私が馬鹿だったのだろうか。
やばい、絶対渡りたくない。
「というか鉄骨渡りをする意味はなんです・・・・・・?」
「いやぁ、バランス崩したらマズい状況で鍛えれば、完璧に近くなるかなと」
バカなの・・・・・・?
「それで、この屋上からどこまでゴールなんですかね?」
「ほい」
服部先輩が、鉄骨の先へ指を指す。
鉄骨は校庭の左隅に置かれた、校舎の二分の一くらい低い、体育倉庫の屋根まで続いている。
斜め左に進まなければいけない上、下り坂のようになっているのだ。正直言ってこんなルート進みたくない。
「これ絶対無理ですって・・・・・・」
「なに言ってんだ寿奈。こんなの走って渡れるぞ?
一番のり~!!」
軽い調子で鉄骨に飛び乗り、そのまま不安定な鉄鋼の上を駆け始める優先輩。
まるで一本の何も無い道を全力疾走するが如く、そのまま体育倉庫の屋根にゴールした。
次いで道女先輩。一歩一歩確実に、慎重に進んでいく。
それを見ながら、服部先輩が私に言う。
「あ、因みに落ちたら最初からやり直しね」
「無理にも程がありますよそれッ!!」
時間は掛ったが、何とかゴールした道女先輩。
次いで、琴美先輩、服部先輩も軽くゴールし。
残るは私だけに・・・・・・、なってしまった。
心の準備をせねば、そう思う度に顔から冷や汗が流れる。
慎重に、右足を鉄骨に乗せる。
「う」
怖い。
「うわあああああああああああああッ!!」
◇◇◇
私にも記憶が無い。気づけば、屋根の上で大量の汗をかいて倒れていた。
足が痛い。タ分叫んだ直後、全力疾走したのだろう。
ただ一つ言えることは、もう鉄骨渡りなんざ二度としたくない、ということだ。
「すごいじゃん寿奈!!」
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
苦笑しながら、私は呟く。




