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帰宅

今日更新された話を以て、女子高生が異世界転生したらドラゴンになれたでの百地優の活躍は終わりになりました。

まだお読みになっていない方は、あらすじ欄に書かれたリンクからお読みください。

電灯を点けっぱなしで、寝てしまったようだ。

 右目の端に、滴のような何かが付いている。涙なのかは分からない。

 とにかく言えるのは、倦怠感が抜けていない事だ。

 物凄い夢でも見たのだろうか。もう正子が自分を見放した時の夢には、慣れてしまったというのに。

 分からないもどかしさと疲れを感じながら、百地優は身体を起こした。

「忘れる、って言ったじゃねえか……」

 優は全部忘れて、今日からの練習に集中すると決めた筈だ。

 なのに、正子の事はちっとも忘れていない。それどころか、溢れかえっていた。

 まるで温泉を掘り起こした時のように。

 正子の夢でも、見たのだろうか。

 

「行ってくる」

 母親にそう告げて、優は扉を閉めた。

 そのまま歩いて、学校への道を歩き始める。

「……」

 起きてから一番気になっている事がある。

 謎の倦怠感や、涙、そして心に掛かっているものもそうだが、それは確かなものとして、優が視認出来るものだった。

 銀色の腕輪。勿論優の私物ではない。

 寝る前に付けた記憶もなし。しかし、どこかで付けた記憶が残っている。

 誰から貰った? いつ貰った?

 昨日? 一昨日? それとも――。

「――!?」

 女の顔が、浮かんだ。

 どこで会ったかは分からない。しかも会った記憶もない。

 でも、優は間違いなく会っている。確信を持って、そう言える。

「まだ疲れてるんだ……。空でも見ようか」

 飛ぶものが、見えた。

 それは鴉でも、野鳥でも、飛行機でもない。

 龍だ。龍が飛んでいる。

「どういう、ことだ?」

 追いかけてみよう。そんな気持ちに駆られる。

 優はそのまま、ただ空だけを見上げて駆け出した。

 龍の動く速度は、優の全速力と大差なかった。

 龍が優を先導している。

 やがて街は消え、龍も空へと消えた。

「なんだったんだ……?」

 やがて辿り着いた場所は、寺だった。

 それも見覚えのある場所だ。

 ここの墓には、優と道女の親友――服部正子が眠っている。

 寿奈の為に、芽衣に殺された親友が眠っている。

 わざわざ、ここに連れて来たのだろうか。

「行こう」

 龍はもしかしたら、優に何か伝えたい事があったのかも知れない。

 

 バケツに水を入れ、正子の墓石まで歩く。

 正子だけでなく、彼女の先祖に対しても手を合わせる。

 正子と会わせてくれて、ありがとうと。

 感謝の後、水を掛ける。

 墓石が綺麗になるのを感じる。

 花――石楠花にも同じように水を掛ける。

「正子……ごめんな。私が悪かった。永遠に友達でいたいからって…寿奈と一緒にいたいと思うお前を分かってやれない私は、馬鹿だよな」

 友達は、お互いの気持ちを分かり合って、お互いを尊重してこそ友達と言える。

 そんな簡単な事を、優は今まで忘れていた。

 だから今まで、助け合ってきた筈なのに。

 正子が怒るのも無理はない。そう気付いた。

「また今度は、寿奈を連れてきてやる。あいつ来てないんだろ? ブラジルに行ったあいつを、お説教でもしてくれや」

 でもあいつなら、許しそうな気がするが。

 正子は昔、弱虫だった。

 琴実と過ごした一年間でほぼ別人になり、寿奈と会ってからは昔の自分と重ね合わせていたからか積極的になり、最終的にあいつは自分の命ではなく寿奈を選んだ。

 寿奈は自分が愚かだと思い、留学した。

「お前ら、自分で背負いすぎなんだよ……。何で、他の奴らを頼ろうとしねえんだよ。友達は、部活の仲間は、何のためにお前らといるんだよ……」

 涙が流れる。

 その叫びが、二人に届いたら良いのに、と叶わない願いを抱きながら。

「うっ……くっ……うわああああああッ!!」

 誰もいない墓場に、優の叫びが響いた。

「あああぁぁ……ううっ……」

 

 その涙が収まった頃、優はようやく気付いた。

 正子の墓石に置かれた手紙に。

 水を掛けてしまったせいか、もうぐしょぐしょだ。

「馬鹿だなぁ……私」

 インクも落ちかけている部分がある。

 優は涙を拭いて、その手紙を読んだ。

 驚く事に、その手紙は優に宛てられたものだった。

 

 優へ

 お誕生日おめでとう! 私が忘れないと思った?

 もしかしたら、私は寿奈の為に死ななきゃいけない。だから、もしもの時の為に、この手紙を残しておくわ。

 皆の分も、ちゃんと用意してある筈よ。

 まず、ごめんね。

 優が自傷行為をしてまで、私がいない事を悲しんでいた事、気付かなかった。私、友達失格かな……。

 いつもの優なら、「そんな事ねえ」って強がってそうだけど、もうその声も聞けないかも知れないんだよね。

 私は、寿奈と過ごした時間も、ことちゃんと過ごした時間も、優や道女と過ごした時間も、皆大好きだよ。というより、皆が大好き。

 暗かった私と、友達になってくれて、今では馬鹿みたいに明るくなれた。

 道女が作るおにぎりは格別に美味かった。優は下手だったよね。でも、あれはあれで優の心がこもっていて大好きだった。

 運動が出来なかった私を、一生懸命鍛えようとしてくれた事もあったよね。

 鉄骨渡りとか、百メートル走九秒台とか、優にしか出来ない事ばっかりやらされたけど、私の為を想ってしてくれてるって分かっていたら、全然苦しくなかったし、楽しかった。

 本当なら、死ぬ前に仲直りしたかった。でも、ごめんね……。

 私と過ごした時間。絶対に忘れないでね。

 ありがとう、さよなら。

 正子より

 

「……ちゃん。優ちゃん?」

「ん?」

「ん? じゃないよ~。聞いてる?」

「ごめん。聞いてなかった」

「もう……優ちゃんは本当に本の話は興味ないんだね」

 珍しく頬を膨らせて怒っている青髪青目に眼鏡の少女は、伊賀崎道女。

 先程から本の話をしていたようだが、優の耳には全然入っていなかった。

「悪いな。やっぱり私には合わないかもな。てかお前はいい加減私と同じレベルまで走れるようになれよ」

「無理だよ~……」

 あの手紙のおかげで、優は元の明るさを取り戻せた気がする。

 でも、やっぱり二人での会話は何かが足りない。それは一生変わらない。

 だけど、優は決めた。

 来年の為に、自分が卒業するまでにお金を貯めて寿奈に帰ってきてもらうと。

「優ちゃん、格好いいね……」

「そうか?」

「うん!」

 道女の笑顔に、優も微笑み返し。

 ふと道がある方向を見る。

 通行人の、制服を着た少女。

 その顔が、あの時見えた彼女に似ていた。

「ちょっと待っててくれ」

「え、優ちゃん!?」

 

 優は急いで、カフェを出て、あの少女を追いかけようとした。

 だけど、出た頃には影はなかった。

――完全に忘れない内に、叫んどくか。

「また会おうぜ、ルナク!!」

 

※※※ ここから先は採用するかどうか任せます

 

 優がいなくなった後の世界。

 その世界には代わりに、ある者が姿を現した。

 赤く長い髪を三つ編みにし、赤い瞳をした、紅い制服の少女。

 それは龍の少女を遠目に見て、嗤っていた。


採用されないかなぁ……(チラチラ)

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