表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日からアイドルを始めたい!  作者: 心夜@カクヨムに移行
IFルート 世界崩壊ルート
165/168

日常は戻ってこない

それから、また数年の時が流れた。

 日本で何が起きているのか、親がどうしているかなどの情報がないまま過ごし、私は一時帰国した。

 東京の羽田空港付近で、もう違和感は感じ取れた。

 街並みが変化しているとか、自分の使っている道具がもう古いもの扱いであるとか、そういう話ではない。

 妙な光景が目に入ったのだ。

 ある時間帯で、全員が一斉に同じ行動を取り始めた。

 全員が同じ方向を向いて、何かに対して祈りを捧げる。まるで宗教のようだった。

 国教が存在する国ならば、その光景も珍しくはないが、宗教の自由が存在する日本ではまず有り得ない光景だった。

 それだけならまだ良かったが、問題は滋賀――私の家に到着した時に起きた。

「ただいま」

 靴を脱ぎ、玄関に上がる。

 リビングで待っている筈の母親の所に向かう。

 母親はいない。鍵は開けっ放しだ。

 美味しい食事を用意して待っている、彼女はそう言った筈。

 しかしテーブルには書き置きすらも残されていない。

 私の母親は、私を物凄く大切にしている。というより、依存している面がある。

 仕方がない。私が幼い頃に、父は死んだから。病気で死んだ父の遺品を全て捨ててから、母にとって私は、父が自分の夫だった証拠なのだ。

「どうして……」

 嫌な予感が働く。

 それと同時、嗅覚が鋭敏になる。

 血臭。それも人間の。

 何故だ。何故血の臭いが鼻を刺しているのだろうか。

 何もかもが分からないまま、私は一旦リビングを出る。

 血の臭いは、お風呂場から漂っていた。

 その時点で、私は覚悟を決めた。これから目にするもの全てを、受け入れる覚悟を。

 ゆっくりと、お風呂場に足を運ぶ。

 何故か半開きになっている扉を全て開き、私はお風呂場に足を踏み入れた。

「――!!」

 私の覚悟は、半端だった。

 それを受け入れる事だけは、断固として自分の心が拒否した。

 湯船に、数本の刃物を刺されて、瞳と口を開けて眠る者がいる。

 茶色の長髪に、自分と同じ黄色の瞳の、エプロン姿の女性。

 間違える筈がない。私の母親だ。

「ああ……ああッ!」

 叫んだ。

 目の前の光景を見ないようにしようと、目を閉じて叫ぶ。

 自分が靴を履いていないのも忘れて、私は外まで逃げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://ncode.syosetu.com/n1678eb/ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ