暗殺者アイドル・杉谷寿奈
夏季大会の前に、出場予定だったチームの半分が棄権した。
理由は言うまでもなく、私達によるものだ。
いや違う。私によるものだ。
芽衣に頼まれた殺しもあるが、それ以上に私は芽衣の為に刃を振り続けた。
アイドル部の部室に飾られた、茶色の鞘の刀。
それが、今の私の愛刀。
芽衣も、私が完璧にミッションをこなす姿を笑ってくれていた。
昔は芽衣が自分でやっていた。しかし今の芽衣には、私がいる。
自分が手を汚さずとも、私が進んで手を汚してくれる。
もう芽衣の命令無しでも、私は自分のグループの為に何をすれば良いか分かる。
芽衣をいずれは、飾り同然に出来る。
私が、勝てる。
「寿奈、ちょっと話があるの」
一人笑みを浮かべていた私に、芽衣が声を掛ける。
普段から傲慢な顔をしている芽衣が、珍しく何か言いたげな顔だった。
「何?」
「私の命令以外にも、不要な人殺しをしているようだけど。やめてくれないかしら?」
きっぱりと、私の所業を否定する芽衣。
私には、意味が分からなかった。
「なんで?」
「私の命令には従う。その約束だった筈よね?」
「従ってるさ。従った上で、私はこのチームの為にやってるんだよ」
「……」
返す言葉を失う芽衣。
私はそれに、止めを刺す。
「正直な事を言うとさ、芽衣より私が命令した方がこのグループ良くなる気がするんだよね。だからさ、もう黙っててくれないかな? アンタの命令は、もう私に必要無いの」
「!」
眼を見開く芽衣。
言葉での反論が出来なくなった彼女は、ポケットからナイフを取り出した。
狙いは腹。しかしそんなものはもう読めていた。
「ふんっ!」
金属と金属がぶつかる音が耳に響く。
芽衣のナイフを防いだのは、私の愛刀だった。
この一瞬で、私は刀を抜いて攻撃を防いだ。
「残念だけど、もう芽衣は私を殺せない。殺せなくしたのは、アンタ自身よ」
本来、私は刀を上手く扱えない。
しかし、私を自分以上の暗殺者にしてしまったのは他でもない芽衣だ。
この刀も、この動きも、芽衣のものだ。
芽衣が自分で、自分を超える人間を作ってしまったのだ。
「天才なんて、大したことないね」
目の前で落胆する彼女は、私が昔倒したいと思った人物だった。
それが今や、私の目には塵同然のように見えた。
「私の勝ちだよ、芽衣。君の敗因は、その傲慢さだよ」
私が芽衣より上になる可能性に、芽衣が気付けなかった。
傲慢は時に、その人物を狂わせる。
しかし、芽衣の全てを吸収して勝利した気分でいる私も今は――。