分岐点
杉谷寿奈が、〇×女子高では無く、芽衣と共にフュルスティン女学院に行くルートです。
1年編の寿奈を書くのが久しぶりな為、少し性格に違和感があるかも知れませんが、ご了承下さい。
私の名前は、杉谷寿奈。
私立閃光学園中学に通う、平凡とは少し遠い中学三年生だ。
部活はサッカー部。私が出たこれまでの試合において、点数を入れ続けたのは私だ。
私の特技であるアクロバット。全ての試合においてそれを使用し、私は軽業女王と呼ばれるようになった。
才能による勝利が、私に孤独を齎すとしても、勝つのを止める事は出来ない。勝利の寂しさは、敗北の苦汁を舐めるよりはずっとマシな事だ。
そして私に初めて、勉強やスポーツにおいて苦汁を舐めさせたのは今私の隣で話す女だ。
「私は『フュルスティン』で高みを目指す。貴女も当然行くわよね?」
刹那芽衣。それが彼女の名だ。
私の同級生にしてクラスメート。そして、学年トップの成績を誇る。
彼女は私の知る、本物の天才だ。
スポーツ万能、容姿端麗、学業優秀、勿論その他の点においても引けを取らない。
父親は総理大臣を務める程の政治家。その他の家族も、あらゆる分野で負け知らずの面子だという。
私が彼女に勝てる要素など、一つもない。
彼女のテストが、全教科満点でない事など一度も無かった。
私もここのテストで学年二位をキープしているが、それでも全教科八十点以上を取るのがやっとだ。
小学生時代――平凡な学校で、平凡なテストを行っていた時とは違って。
「……いや、私は……」
「何かしら?」
私は正直に、親と出した結論を話す事が出来なかった。
芽衣が言う『フュルスティン』とは、学校の名前だ。
国の中でも五本の指に入る難関私立女子高校の一つで、日本中から天才が集められる。
それこそ、その学校には芽衣のようなエリートしか入れない。
私のような一般家庭出身の人間に、入れる学校ではない。
今唯一の肉親である母からは、私がどの学校に入るかは私が決めれば良いと言ってくれた。
しかし、あまり母親に無理はさせたくない。
だからお金の掛かる私立をやめて、高校は県立――それも極々普通の女子高に入る事に決めたのだが……。
私には、それを言い出す事が出来なかった。
このまま……芽衣に負けたまま終われなかったから。
いつか芽衣に勝って、一番になりたい。そう思ってここまで頑張ってきた。
それなら勝利の寂しさを知る事はない。例え一位になっても、芽衣は私と仲良しでいてくれる。
「うん。私も行くよ」
「それでこそ、私の好敵手ね」
私は親を苦しめる事を承知で、それを決断した。
母親には何度も土下座した。そして私の希望を聞いてもらった。
学業特待を取れるように勉強を続け、私は何とか『フュルスティン女学院』に入学する権利を獲得し、そのまま二週間が過ぎた。
芽衣はバスケ部に決めたが、私はまだ部活を決めかねていた。
下校路で手を顎に当て、目を閉じて深く考える。
「たまには、芽衣と手を組まなきゃ戦えないものがやりたいな」
私が今までやっていたサッカー、そして芽衣が得意とするバスケも、チームプレイ無しには成り立たない競技。
しかし実力があれば、どちらも単独で勝つ事は可能だ。
現に私が『閃光学園中学』にいた時は、私がアクロバットで敵を抜き去る戦法を繰り返せば必ず勝てた。芽衣も敵の動きを読み取って、ほぼ単独で点数を取るという個人プレーで優勝し続けていた。
そうではなく、二人の力を合わせなければ勝てない競技をしようと思った。
もしかしたら、それで芽衣に勝つ方法が思いつくかも知れない。
部活を新設するという手もある。
芽衣のコミュ力があれば、必要人数を揃える事も可能だ。
その時だ。
街を歩きながら考える私の前を、四人の少女達が横切った。
四人の制服は、上下赤のブレザー。当初私が入る予定だった女子高の制服だ。
そして、その四人の会話も聞こえた。
「今年のアイドル大会こそ、優勝したいわね」
四人のリーダー格と思しき赤髪の少女が、そんな事を口にする。
アイドル大会、という言葉に私は反応する。
彼女達がアイドルなのかどうかは知らないが、今はそんなものがあるのだろうか。
家に戻るや否や、私はそのアイドル大会について調べた。
如何やら今時は、アニメや漫画ではよくある学生アイドルが当たり前らしい。
素人の学生が、パフォーマンスを競う大会。
私もアニメや漫画は好きだが、そんな大会がリアルで行われるとは夢にも思っていなかった。
動画も閲覧したが、どのチームもプロレベルとは言い難いが中々のものだ。
しかし一際目を惹くものが一つ。
『〇×女子高スクールアイドル部』。チーム名は決めていないと思しきチームだ。
目を惹いた理由は、彼女らが特別優れていると言う理由ではない。
その逆。彼女らが特別劣っているという意味だ。
歌は嚙みまくり、踊りもミスや無駄が多い。
容姿は芽衣のような絶世の美女はいないが、全員中々整っている。
勿体ないチームだとも思うし、何故続けるのか分からないチームでもある。
このチームの大会記録は過去最悪だ。二十位以上に入った事が一度もない。
他のチームは、少なくとも一度や二度は上位を取った経験があるにも関わらずだ。
このチームが勝つ事は、永遠に無いだろう。
「でも、これは面白そう」
アイドル。
私がそれに向いているかどうかは分からないが、面白そうな競技ではある。スポーツの天才でもある芽衣をリーダーとすれば、上位は狙えそうだ。
「明日、相談するか」
私はそのまま、パソコンを閉じた。
その次の日。
「アイドル?」
芽衣は鋭い目を向けて問う。
「そう、アイドル。たまには芽衣と協力して何かをやってみたいって思ってさ」
「なるほどね」
携帯端末に向き直り、再び概要欄を注視する芽衣。
偏見かも知れないが、私は芽衣がアイドルに興味があるとは思えない。
しかし、その返事は私の予想とは反するものだった。
「良いわよ。ただし、私をリーダーにするなら、私の命令に必ず従う覚悟をすることね」
「勿論。この大会を通して、私は必ずアンタに勝ってみせる」
「楽しみにしてるわ。それがどんな結果を生むか、楽しみね」
芽衣は不敵な笑みを浮かべる。私の未来を、楽しみにしてくれている。
その時は、そう思えた。