夏季大会 その一
七夕祭りから一週間。
再び私達『Rhododendron』は、『日本ライブドーム』の前に立っていた。
前回の春季大会では、冬季大会からの目的であった0票と最下位からの脱出に成功し、十三位で終わった。
だが主に服部先輩は、その結果に満足してはいなかった。
『Rabbitear Iris』。それが私達『Rhododendron』のライバル――――――、そして春季大会優勝者。
彼女達は先輩が0票で完敗した時も優勝し、現在私が知る限りでは二連続優勝を成し遂げている。
『Rabbitear Iris』という高いハードルを越え、一位という高台へ足を踏み入れる。それが今回の目標・・・・・・。
私は隣にいる服部先輩を見る。先輩はいつになく真剣な表情をしていた。
普段は私に、緊張し過ぎないように、気楽な雰囲気を見せている先輩が。
それを見ていて、私は心配になった。
「服部先輩ッ!」
「うわぁッ、どうしたの寿奈?」
さっきの表情から一変し、かなり驚いた表情をする服部先輩に私は言う。
「先輩は『Rabbitear Iris』に、雪空さんに勝ちたいんですよね?」
「うん」
私はガッツポーズをしながら、口を再び開く。
「だったら、いつも笑顔の先輩が緊張し過ぎちゃいけないと思うんです!
いつも通りに行きましょうよ!」
先輩は目を閉じてから、嫌らしい笑みを浮かべ。
「だよね。やっぱりバカみたいに笑っているのが私らしいよねッ!」
「じゃあ、行きましょう!」
私と服部先輩は、ほぼ同時に入口に向かって駆け出した。
エントリーを済ませ、楽屋で化粧を済ませてから、扉を開ける。
これもまた運命なのか、雪空千尋と二人のチームメイトと遭遇した。
「性懲りもなく表れたようですね。私達に勝とうとしているみたいですが、そんなこと出来るのでしょうか?」
相変わらず人を食ったような態度をとる雪空。それに言い返さないように堪える服部先輩。
先輩を抑えているのは、悔しさや怒りのエネルギーを踊りに使おうとする意志なのだろうか。
先輩は拳を握りながら笑い、呟く。
「ええ。勝つつもりよ。
首を洗って待っていなさい」
先輩はそれだけ言って楽屋に戻っていく。それを見届けてから、私は戻ろうとするが。
「杉谷寿奈さん」
雪空が私を呼ぶ。
「何ですか?」
「――――――貴女は何故、スクールアイドルを続けているの?」
その質問に対しての答えは、見つけることは出来なかった。
何故なんだろうか。私は中学生まではサッカー選手だった。だが高校で服部先輩と出会い、私はスクールアイドル部に入り、こうして先輩達と共にここにいる。
私はそれを運命として受け入れ、そこに謎など抱いておらず、何故そうあり続けるのか考えたことが無かった。
私が答える前に、雪空が言う。
「私は、スクールアイドルとして活動している時が、一番自分らしくいられて大好きだから。それは、貴女の先輩のあの人だって同じ筈。
だけど貴女は違う。ただ運命に従い、それを当然のように受け入れて、運命に操られているだけの人形――――――。それが私達と貴女の違いであり、貴女が加入しても十三位までにしかいけなかった理由であり――。
貴女が迷っている理由でもあるのよ」
え? 迷っている?
「迷っているわよ。貴女は自分が本当にあの人達の役に立てているのか常に悩んでいる。0票から脱出出来たのはマグレで、自分がいることで次は負けるんじゃないかって迷っているわ」
「何故分かるんですか?」
「私は、超能力者なの・・・・・・」
は?
私は首を傾げる。
「ただの勘ですわ。では、頑張ってね」
彼女らは自分の楽屋に戻って行った。
そしてステージに立つ。今回も私がセンターだ。
あの言葉を思いだしそうになったが、今は集中せねば。
もしかしたら、これで私の答えが見つかるかも知れない。
答えを見つける為の演奏が、始まった。




