最終回 忘れられた石楠花
飛行機の着陸アナウンスと同時、私は読んでいた本を閉じた。
本のタイトルは『Rhododendron活動記』。著者の欄には、伊賀崎道女と書かれている。
私達の軌跡は本となり、そして世界中で読まれるようになった。
この本を読むたびに、私はあの時を思い出す。
五年前、私がスクールアイドルをやめたあの日までの事を。
「・・・・・・ついた」
羽田空港に無事着陸し、私は荷物を持って機内を出た。
日本よりも暑いブラジルで過ごした為か、外気が寒く感じる。
今日は八月十四日。
わざわざ羽田空港行きを選んだのは、一度コミケ会場に行きたかったからだ。
それから家に戻り、空良や母にも会いに行く。
私は五年前から少し変わったかも知れない。
背も少し伸び、顔も若干大人っぽくなって――と期待していたのだが。
私の外見は殆ど変わらなかった。
強いて言えば、少し日焼けしたかも知れないが。
「すみません、東京ビッグサイトまで行きたいのですが」
外のタクシーに乗り、私はビッグサイト付近まで移動した。
周りの建物の一つに、見覚えのある顔の人が載ったポスターがある。
空良達の顔。
あれ以来空良達は、スクールアイドルとして功績を残し、プロアイドルデビューを果たしたのだ。
あのポスターや、皆の声、そして顔を見る度に私は思う。
もう遠い存在になってしまったのかな、と。
五年経った今、アイドルだった頃の私を知る者は殆どいない。
ワールドカップにはまだ出ておらず、まだブラジル国内の大会に出場しているのみ故、日本で私の話など出ていないだろう。
街行く人の一部が、私を見ているが、ふんわりとした記憶しか残っていないのだろう。
だが、それでよかった。
別に私は、アイドルとして名を残したいわけではなかった。
世界中の皆の心に響く歌と踊り。
それが出来れば十分だった。
「えーっと、これかな」
寿奈がコミケに来てまで探したかったもの。
それは、『Rhododendron』のCDだ。
最近同人ゲームの主題歌にも使われたらしく、それを買いに来たのだ。
「・・・・・・帰るか」
「ん?」
私は、他の客とぶつかった。
袋から中身を零し、私は謝りながら中身を拾い集めた。
「す、すみません」
「お、おう。
・・・・・・お、お前もそれ好きなのか?」
その客――黒髪ロングに黄色の瞳の女性が突如問うてくる。
その人も、私が買ったのと同じCDを持っていた。
「私はこのゲーム好きで買ったんだ。
まあ当たり前だが。お前もこのゲーム好きなのか?」
「いや。一応好きですけど、そこまででは」
「ほほう、そりゃなんで?」
「それは――」
私の頭を過る、沢山の想い出。
嬉しかった事、悲しかった事、全部過ぎて行ったけれど。
絶対に、私の頭から消えない。
そう。
「私の大切な想い出と、また会いたかったからです」
――Fin
心夜です。最終回ということで、今回後書きを書いて幕を閉じたいと思います。
一年間続いた今日からアイドルを始めたい!は、私にとって初めてきちんと完結させた作品だと思っています。
ラブライブをリスペクトしたアイドルものを書きたい、という想いから、オリジナルの展開が生まれ、そして最終章まで書き終えることが出来ました。
そして、様々な人に読んでもらい、私はとても幸せです。
これで本編は終わります。ですが、もし私の想いが強ければ、続編を書きたいと思っています。
皆さんとまたいつか会えることを祈って、寿奈達と共にスタッフロールを以て〆たいと思います。
一年間、ありがとうございました!
『今日からアイドルを始めたい! ファイナルライブ編』
原作 心夜(小説家になろう)
杉谷寿奈
服部正子
黒野空良/杉谷空良
風魔琴実
百地優
伊賀崎道女
雪空真宙
明智秀未
雪空千尋
刹那芽衣
星夜真友
暑井火奈乃
マリア
ニーナ・シルヴィア
剣重美
灰原北子
And more・・・・・・
スペシャルスタッフ
読者の皆さん
 




