新しき時代へ その一
長い夢から覚め、瞼を上へと持ち上げる。
それに対する寂しさとか、時が戻らないもどかしさ、そして帰ってこないあの人に対して、涙を流しそうになる。
上体を起こして、大きく伸びをする。
充電していた携帯端末を手に取り、黒野空良はそのままベッドから降りた。
それから近くの棚の上に置かれた額縁の写真を見る。
つい数日前までの写真。
寿奈も空良も、他の皆も。笑顔で写真に写っている。
何故かまだ数日しか経っていないのに、不思議と数年前の出来事のように感じる。
やはり、寿奈がいなくなったからだろうか。
――寿奈は予定通り、日本を出て行った。
行き先も予告通りサッカーの本場ブラジル。
今はそこで、プロのサッカー選手になる為の特訓を始めている所だろう。
「部長・・・・・・」
寿奈は去り際に、部長を指名した。
真宙か秀未、そのどちらかだと思ったのだが、寿奈は空良を選んだ。
その理由は分からなかった。
だが寿奈は言っていた。空良なら、部を任せられると。
これから空良がやらなければならない事。
それは部員勧誘。
空良は昨日、始業式を迎えて二年生になった。
よく考えれば、あの援助交際で稼いだ金によるアパート暮らしから、寿奈の家で暮らす切っ掛けがアイドルだったのは驚きである。
空良はここから、上に行けるのだろうか。
寿奈無きアイドル部を、勝たせることは出来るのか。
空良には、寿奈のようなアクロバットは出来ない。
だが、相手の心理を突くのを誰よりも得意とする。
だから、客の心理を理解した踊りと歌で勝ち上がりたい。
それが、死んだ奴らに見せてやりたい光景だ。
途中まで馬鹿にはしていたが、空良はここまで真友が自殺した光景を忘れたことなど無かった。
北子に関しては、感謝祭の直後に裁判が開かれ、死刑が決まり。
どこかに隠れている仲間に脱走を手助けされないよう、その二日後に刑が執行された。
聞いた話によると、死の直前の北子はとても穏やかだったらしい。
だが涙を流し、首が締まって暫くも止まらなかったという。
きっと、それは作戦の失敗という理由だけではないのだろう。
仲間の死にも、きっと涙を流していたのだろう。
「・・・・・・」
学校が始まる。
今日も私は、バッグを背負って一階に降りた。
「義母さん、おはようございます」
「あ、空良。おはよ」
まだ寂しさが抜けきっていないのだろうか。
寿奈の母の声は、昨日と同じく少し暗かった。
この前の話では、五年くらいは帰ってこないみたいな事を言っていたのだから、そろそろ慣れてくれないと空良も調子がくるってしまう。
「今日から部員勧誘の日だね。
どういう子を探すの?」
「行ってみなきゃわかりませんよ。
やる気のある人は勿論ですが、隠された情熱を秘めている者とか。
私はそんな人を探します」
朝飯のパンを咥え、空良は駆け出す。
そして、学校へ向かった。




