ラストライブ 杉谷寿奈よ永遠なれ
そして、運命の日がやってきた。
午後六時。
既に三曲を歌い終わり、会場はかなりの盛り上がりを見せていた。
今控え室には、メンバー全員がいる。
琴実先輩、優先輩、道女先輩、空良、真宙、秀未。
そして私。
だけど、私には見えていた。
私の肩を叩いて、緊張をほぐす服部先輩の姿。
あの時死ななければ、恐らくこの場にいる筈の服部先輩が。
「んっ、んっ・・・・・・」
大好物のチョコレートを口に入れる。
控え室で待つのも、これが最後になるだろう。
これから歌うのは最後の二曲。
この感謝祭の為に書き下ろした、最後にして最強の二曲。
その歌が終わった時、私はアイドルとしての役目を終える。
「では、行きましょう」
時は来た。
全員が、それぞれの想いを胸に立ち上がる。
だけどアイドルらしく、心の底から笑顔で。
「待って」
控え室を出ようとする皆を、私が止める。
全員が私に、顔を振り向かせた。
「これが、私にとって最後のライブ。
だから最後に一回、皆の心からの声を聞きたい。
このライブに込めている皆の想いを」
全員で、円陣を組む。
一人一人が、自らの想いを吐露した。
最初に、空良が呟いた。
「私は、この世界に自分を連れてきてくれた寿奈姉さんや先輩達に恩返しがしたい。
その一心です」
次に、琴実先輩。
「あの時、正子さんと会った時。
あれが私の運命が変わった瞬間でした。
あの瞬間があったから、今がある。
あの瞬間にいた私に、成長した自分を見せるくらいの気持ちで歌います」
優先輩。
「正子、道女。そして寿奈や琴実達。
私とダチになってくれてありがとうな。
これからも、これからも友達だぞ」
道女先輩。
「この時の為に、私は頑張ってきたのかなって。
そう思えるの。
仲良くしてくれて、ありがとう。このライブ、必ず成功させよう」
真宙。
「私は、姉さん以上のアイドルになりたかった。
最初はそれだけだったのに、皆は凄く私に優しくしてくれて。
だから、姉さんの為だけじゃない。
世界中の皆に、私達の歌が届くように」
秀未。
「真宙や、お主らと会えてよかった。
剣道と同じように、この世界は私の心を強くした。
強くなった自分達の力を、皆に見せたい」
「・・・・・・」
「あの、寿奈さん?」
「ふぇ?」
琴実先輩に声を掛けられる。
「私達に心の内を見せるように言ったのですから、貴女の心も見せて下さい」
微笑みながら、そう言う琴実と。
皆の心は一緒だった。
「私は――。
この時。この瞬間を大事にしたい。
これで最後だけれど、最後だからこそ持ちうる力全てを使い尽くしたい。
最後まで、皆で戦おう」
私の言葉に、皆が頷く。
「やってやろうじゃねえか!
お前ら、準備は良いか!?」
優先輩が叫びながら、再び問う。
もうライブの時間はすぐそこまで迫っていたが、それすら忘れて。
「行くぞ!」
「おおおおッ!」
寿の言葉と共に空へ 作詞 松野心夜 作曲 なし
歌 Rhododendron(杉谷寿奈 黒野空良 風魔琴実 百地優 伊賀崎道女 雪空真宙 明智秀未)
終着点が 見えて寂しいね
追いかけていだけの僕が いつの間にか追いかけられるようになって
走り続ける 未来のモノへ
僕は言葉を 送りたいよ
笑顔でさ
寿の言葉と共に空へ 飛んでよ
僕は見送るさ 君達を
僕より 高く飛べるさ 君らなら
きっと素敵な未来が ある筈さ
広い広い この空を
飛べるかどうか 不安になったけど
君の言葉なら 何だか信じられる気がしたよ
空だけだなんて 言わないさ
宇宙まで 飛ぶつもりで
飛び続ける 過去のモノの為に
笑顔でさ
寿の言葉と共に空へ 飛び立つよ
僕は手を振るさ 君達に
君より 高く飛びたいな 出来るかな
きっと素敵な未来 あるのさ
光のように この世界を
飛べるかどうか 不安だったけれど
君の力なら 何でもやり遂げる気がしたよ
宇宙だけだなんて 言わないさ
銀河まで 飛ぶつもりで
飛び続けてよ 未来のモノの為に
笑顔でさ
寿の言葉と共に空へ 飛んでよ
僕は見送るさ 君達を
僕より 高く飛べるさ 君らなら
きっと素敵な未来が ある筈さ
「次が、最後の曲です!
ここまで楽しんでくれた皆さん、本当にありがとうございました!
それでは、お聞きください!」
私の声に、会場のボルテージが上がる。
次の音楽。最後の音楽が始まろうとしていた。
今日からアイドルを始めたい! 作詞 松野心夜 作曲 なし
歌 Rhododendron全メンバー
(杉谷寿奈 服部正子 風魔琴実 百地優 伊賀崎道女 黒野空良 雪空真宙 明智秀未)
一つの星が 導いてくれたこの世界
星は 僕達に勇気を与えてくれた
厳しさも 教えてくれたのさ
明るくも 穏やかなその星
君がいたから ここにいる
僕が飛べる場所は ここだ
今日からアイドルを始めたい!
この世界で輝きたい!
星と共に 僕は走りたいんだ
さあ駆け出そう 星と共に
一つの光が 輝いてくれたこの世界
光は 僕達に希望を見せてくれた
自ら 弾けてくれたのさ
轟く 雷のような光
君がいたから ここにいる
僕が飛べる場所は ここだ
今日からアイドルを始めたい!
この世界で輝きたい!
光と共に 僕は飛びたいんだ
さあ飛び立とう 光と共に
星を受け継いだ 光の舞いは
僕らに よろこびを齎してくれた
想い出で終わりたくない
これからも一緒
翼は 千切れない――
歌っている途中、私は紅い流れ星を見た。
ライブ中なのも忘れて、私はその星に見入ってしまった。
何故ならその星が、私には服部先輩に見えたから――。
服部先輩、私――私は一番になれたのかな?
数々のアイドルグループを超えるライブをやって、私達は一位になった。
でも、どうして。
――――どうして、この結果に納得いかないのかな。
一位になれたのに、優先輩達との約束も果たせたのに、
何故、どうして?
『――――ライブが、まだ終わっていないからだよ』
先輩? 服部先輩?
『――さあ歌おうよ寿奈、昔一緒だった時のようにッ!』
はいッ!
今日からアイドルを始めたい!
この世界で輝きたい!
星と共に 僕は走りたいんだ
さあ駆け出そう 星と共に
星と 光が 共に言った
さよなら また会う日まで と
――また会いましょうね、服部先輩。
『うんッ! またいつか会おうね』
嗚呼 光は空へ 溶けてく・・・・・・
「うおおおおおおおおおおッ!」
そこに待っていたのは、観客たちの声。
会場は大歓声に包まれ、私はそれに涙を流した。
これで、終わりなんだね。
「・・・・・・」
あれ。
言葉ではなく、叫び声だった歓声が、一つの声に変わる。
その声が聞こえた後、他の観客も同じように叫び出す。
「アンコール! アンコール!
アンコール! アンコール!」
その光景に笑みを浮かべ、後ろにいる仲間達にその顔を向ける。
皆も、同じ気持ちのようだった。
そして私は、マイクを手に取った――。




