物語は否定させない
「中止!?」
感謝祭の運営本部が学校に赴き、私に告げた言葉だ。
感謝祭自体の中止ならば、諸事情あっての事なのだろう。
拒否できるものならしたいが、それが絶対に適切かと問われれば私は答えられない。
だが、それだけではない。
感謝祭の運営委員は、同時にアイドル大会の運営委員でもある。
同時に告げられたのは、このスクールアイドルという競技自体の廃止。
そして、これ以降大会も行われない。
勿論否定の意見もあったらしいが、肯定派もそこそこいたそうなのだ。
理由は、あの感謝祭での事件。
辛うじて私の歌で洗脳を解いたものの、事実を告げられ、それに耐えきれず、精神障害を抱えた者もいるそうなのだ。
それもその筈。
普通に生きていれば、マインドコントロールなどされる筈もないのだから。
だけどそれは現実となった。
そして自分がそうなっていたと知れば、ショックに耐え切れない者も当然いる。
これはスクールアイドル云々の問題というわけではなく、アイドル自体にトラウマを抱えた者もいる可能性が浮上した。
「そんな・・・・・・」
時間が止まる。
自分にとって腑に落ちない結果から目を背けようと、自分の中で止めた。
「この度は、皆様にも大変ご迷惑をおかけしました。
感謝祭中止と、大会終了。
これは我々が出来る、唯一の贖罪です。
貴女達がアイドルで無くなっても、様々な舞台で輝ける事を祈って、私はここから去らせていただきます」
「お待ちください」
そのまま潔く去ろうとした運営委員の足を止めたのは、一緒にいた琴実先輩だ。
頭を下げ、地に身体を預け。
懇願するように、琴実先輩は口を開く。
「大会廃止、そして感謝祭の中止。
出来れば考え直して下さい」
運営委員は目を丸くする。
「これは決まったことです。今更覆そうにも・・・・・・。
それに、貴女方以外の、この競技を利用するものによって多くの事件が起こり、そしてこの前の事件では多くの犠牲者と重症者を出した。
こんなアイドルは、アイドルと呼んでよいものなのか・・・・・・」
「ですが私は逆に。
そのアイドルが、世界を救ったことも知っています」
寿奈を見て微笑む琴実。
「この世界でも、出会いと別れがありました。
この世界があったから、今の私がいます。
寿奈さんに、優さん道女さん、そして空良さんや真宙さん、秀未さん。
そして、正子さん。
全員、このスクールアイドルを通じて出会った仲間です」
「先輩・・・・・・」
運営委員は少し考えた。
「・・・・・・私達の運営委員長が何故、アニメの世界などでは当たり前になった、普通の学生がアイドル活動をするという競技を再現しようとしたか・・・・・・。
君達の言葉で、思い出せた気がするよ。
委員長も、かつてはアイドルを目指していた。
だが、プロは誰でもなれるわけではない。
だから考えた。
誰でもなれるアイドル。そして、どれが一番かを競わせる競技。
そして、この現実世界に公式の誰でもなれるアイドルが誕生した。
君達の言う通り、様々な学校でドラマがあり、そして、多くの人達を笑わせてくれた。
だから必要なのは、ここから変えること・・・・・・。
ありがとう。きっと感謝祭を、再び開催する。
三十一日を、楽しみにしていてください」
 




