夜空に願いを!
「皆さん、こんなお知らせが来てますよ!」
琴実先輩が嬉しそうに言いながら、紙を机に置く。
「なになに~?」
服部先輩が軽いノリで紙を見る。
見て数秒後に、紙を落としながら硬直した。
「ん、どうしたんですか先輩」
恐る恐るその紙を拾い上げ、読んでみる。
『初めまして、『Rhododendron』の皆さん。長浜市長です。六月のスクールアイドルの春期大会、見させていただきました。結果は十五チーム中十三位とあまり芳しくなかったようですが、私は素晴らしいと思います。さて本題に入ります。
もしよろしければ、七月七日に開催される七夕祭りでライブをやっていただきたいのですが、参加して下さいますか?
決まり次第、返事を下さい』
「これ、え、えーッ!」
『Rhododendron』のライブを、長浜市長も絶賛しているだと。あの春季大会、やっぱり無駄じゃなかったんだ!
「やりましょうよ! 先輩!」
私の呼びかけを聞いた琴実先輩が言う。
「ですが、もう夏期大会が迫っておりますし、今からとなると練習時間も限られておりますし。あと期末テストがあるのを忘れておりませんか?」
「う・・・・・・」
確かにそうだった。期末試験、それがあったな。
しかも私ならともかく、服部先輩が心配だ。
だが・・・・・・。
「それでも、やってみませんか?
まず滋賀にスクールアイドルは私達だけなんです。ということは、スクールアイドル自体に興味を持っていない――或は知らない人も多い筈。だから私達がライブをやることで、他の人に夏季大会に見に来てもらう。次の得票数を稼ぐチャンスなんですよこれは」
「ですが・・・・・・」
「私は構わないよ、琴ちゃん!」
「いや、貴方が一番心配です」「お前が一番ダメだ」
琴実先輩と優先輩が同時に言う。
「わ、私もやりたいです・・・・・・風魔先輩」
道女先輩も琴実先輩に呟く。
「伊賀崎さん・・・・・・。よろしい、やりましょう!」
こうして、七夕祭りへの練習が始まる。
◇◇◇
練習期間が過ぎるのはあっという間だった。
私もこの七夕祭りに来るのは初めてではない。毎年、去年受験生だった時でさえ、ここで花火を見に来ていたのだ。
だがそれは、勿論客として来ていただけ。こうして祭りのイベントを担当したのは、今回が初めてだ。母親と父親にも話したが、凄く驚いていた。
ステージ裏で着替えを済ませ、琴実先輩と市長の会話が終わるのを待っている。
リボンを付けている途中の服部先輩が声を掛けた。
「お、今回はあまり緊張していないみたいだね」
「もう一度経験しちゃってますしね。これで緊張していたら、夏期大会で一位なんて夢のまた夢です。ここで観客の視線にも慣れてしまいましょう」
「今の寿奈ならリズム感の弱点はある程度克服してるし、大丈夫だよ」
先輩のグッジョブに対して、私も同じくそれで返す。
丁度琴実先輩も、その頃帰ってきた。
「そろそろ始まる時間です。行きましょう!」
「はい!」「うんッ!」「ああ!」「は、はいッ!」
『プログラム二十番 滋賀県立〇×女子高等学校スクールアイドル部、チーム名「Rhododendron」の皆さんによるライブです!』
スピーカーからの音声と同時に、私達はステージに登場する。
市長が予め録音しておいた服部先輩の音声が流れ、その内に定位置に立つ。
『私達「Rhododendron」は、三年生一人、二年生三人、一年生一人のアイドルグループです。部長は風魔琴実先輩、副部長は私、服部正子です。私達は風魔先輩のご指導の下、日々練習に励んでおります。今日は、その成果を皆さんにお見せします。
それではお聞き下さい、曲名は「夜空に願いを!」です』
観客からの拍手。その後、演奏が始まる。
◇◇◇
『夜空に願いを!』作詞 松野心夜 歌 Rhododendron
(杉谷寿奈 服部正子 風魔琴実 百地優 伊賀崎道女)
Hope キミは星に何を願うの?
キラキラ光る星に 何を願うの?
Hope 例え願いが違ったとしても
幸せになりたい その気持ちは同じだから
皆で 幸せを願おう
流れる星に向かって 皆で叫んだ
願いよ 叶えと
そして輝きの下で 私達は踊るんだ
願いよ 叶えと
true 願いは本当に叶うの?
キラキラ光る星は 叶えてくれるの?
true 例えそれで叶わないとしても
幸せになる為の 一歩になる筈だから
皆で 幸せを願おう
七夕の夜に向かって 皆で叫んだ
想いよ 叶えと
そして夜空の下で 私達は踊るんだ
想いよ 叶えと
叶うかどうか 分からないけど
私達は願うんだ 幸せを
お星様は 私達を裏切らない筈さ
だから 叫ぼうよ
想いを
流れる星に向かって 皆で叫んだ
願いよ 叶えと
そして夜空の下で 私達は踊るんだ
想いよ 叶えと
◇◇◇
ライブが終わり、一瞬の静寂。
その後、大きな拍手の音が観客席から聞こえた。
センターマイクを務めていた服部先輩が前に出る。
「私達は、未熟ですが、これからも頑張ります!
夏期大会、是非見に来て下さいッ!」
観客席からの歓声。
このライブは、大成功に終わった。




