揺れる光、瞬く星
まだはっきりとはしないが。
歌は徐々に、効果を示し始めていた。
洗脳され、自分の思考を奪われている筈の観客が、私の歌に反応したのだ。
そして私の名前を、少しずつではあるが呼んでいる。
「じゅ・・・・・・な?」
あともう少し。
そう思って、私はただ一人、歌い続ける。
アクロバット技を使い続け、既に体力が限界に近付きつつあるが。
足が動かなくなろうと、立てなくなろうと、私は歌う。
そして、この世界を守る。
だがその気持ちは、ある人物の登場によって破壊された。
「やはり、無駄だったようね。
私の洗脳には勝てない・・・・・・」
もう捕まった筈の、北子の声。
狂った笑みを浮かべる彼女に、私は少し恐怖を覚え始めていた。
これは、あの時に似ている。
私を負かせた時、芽衣が浮かべる表情に。
私の口から、歌が止まった。
もう私には歌えない。どうやっても、あの洗脳を止められない。
私のしようとしたことは、やはり無駄だった。
そう思わざるを得ない。
奇跡なんて、やっぱりない。
私は、激しい絶望に打ちひしがれた。
これが夢であるなら、今すぐ覚めて欲しい。
そう、考えてみれば、卒業式の日からのことが壮大過ぎたのだ。
それでこんな悪夢を見ているのだとしたら、すぐにでも覚めて欲しい。
自分の身体も心も、徐々に現実を受け止められなくなっていた。
――ごめん、空良ちゃん。真宙ちゃん、秀未ちゃん。
――すみません、先輩。
――すみません、服部先輩・・・・・・。
「諦めちゃダメよ!」
声。
長い間、聞かなかった声。
いや、自分自身が訊くのを拒絶していた声。
私自身が、彼女の声で自分が救われるのを拒絶していたから。
でも、勇気をくれる声。
前に進める声。
辛い現実にも、どんなことにだって立ち向かえる力をくれる声。
「服部先輩・・・・・・」
赤い髪を三つ編みにした少女が、私の前に立ち。
目元は見えなかったが、彼女はそっと微笑んで、不安定な光へと変わる。
それは観客の心に吸い込まれるようにして、溶けて行った。
まるで、星のように。
一つ一つは小さな星なのに、集まって大きくなる。
そうだ。
私は一人じゃない。
私は何故、アイドルになった?
ただ誘われたからではない。
その世界が、輝いて見えたから。
眩しくて、眩しくて。
私もそこに行きたいと思ったから。
自分が力になれるなら、皆と一緒に勝利を掴みたいと思ったから、アイドルになりたいと思ったのではないのか。
前にある光だけじゃない。後ろに聳える過去の闇も、右や左から押し寄せる闇にだって目を背けない。
全部背負って、私は歌う。
「寿奈姉さァァァァァァァァんッ!」
北子を蹴り飛ばしてから、私に叫ぶ。
珍しく大きな声で、私を応援している。
「頑張れッ!」
『さあ、歌うのよ寿奈。
アンタは独りじゃない。
アンタを支える仲間がいる。その人達を信じて!』
――ありがとう、空良。
――ありがとうございます、服部先輩。
「私、まだ諦めない!」
私は再び、マイクを手に取り立ち上がった。




