二人(ひかりとほし)の歌 その一
「寿奈、寿奈、見てよこれ」
「?」
私と服部先輩以外がもういない部室で、彼女は埃をかぶった黒い箱の中を見ていた。
所々読めない字もあるそれは、歌詞カードのようで、細かいリズムなども表記されていた。
「私が小学生の時に書いてた奴よ。
この頃から、私はアイドルになりたいって思ってた。
だけどこの歌詞カードがあるのを知っているのは、世界で一人だけ。
私しかいない」
「は、はあ」
服部先輩がその歌詞カードを見せた意味を、私は察せなかったが、答えはすぐに返ってきた。
「私、ずっと決めてたの。
優や道女達にも内緒で曲を書いて、いつか私以上のアイドルに、これを歌ってもらおうって。
だから、これを見た事は一生私と寿奈だけの秘密にして。
そしていつか、時が来たらこれを歌って欲しい」
服部先輩が、その歌詞カードを渡す。
証書を受け取るような感じで丁寧に受け取り、鞄の中にしまう。
「はい!」
あれから二年が過ぎ、私はマイクを手に取ってそれを歌おうとしている。
――先輩、世界の為、貴女の力を貸して下さい。
Call me 作詞 松野心夜 作曲 なし
歌 杉谷寿奈&服部正子
どこかで
私を呼ぶ声が 聞こえた
寂しい時 悲しい時 抱きしめるように それは聞こえた
だけど そこには 何も無い
虚ろなその声に 僕は 勇気を貰えた気がする
君のその歌に 静かに手をはたき続けて 泣いた
頑張ると 僕は返事をした
君がただ笑えば それでいい・・・・・・
「・・・・・・だ・・・・・・れ・・・・・・だ?」
歌に、皆が耳を傾けていた。




