歌と想い ―寿奈の答え―
「大したものだわ・・・・・・あの重美を一撃で倒すなんて。
私一人じゃ、とても貴女を倒せそうにない」
重美は白衣を脱ぎ捨て、両手を上げた。
白衣が落ちると同時に、重い音が響く。恐らく武器の類を入れていたのだろう。
もう北子に、戦意などない。
「大人しく投降するのか?」
優の問いに、北子は笑みを浮かべつつ答えた。
「勘違いしないで。
例え歌を止めた所で、洗脳が終わるわけじゃない。
この歌は私の洗脳下に置く為のもの。
私が解除する方法さえ吐かなければ、世界は永久にあのままね」
「負けを認めたわけじゃない、ということか・・・・・・」
北子と戦う必要は無くなったが、状況は決して良くはない。
次は、洗脳された者達を戻す方法を考える必要がある。
「そんなもの、簡単だよ」
寿奈が言う。
恐らく根拠のない、でも不思議と安心感を齎すこの少女の言葉に、北子でさえ驚いていた。
「歌で洗脳されたなら、歌で元に戻せばいい」
空良も優も、それに頷く。
だがそんな、アイドルの理屈に。
北子は馬鹿にしたように高く笑う。
「洗脳音楽は、ただの音楽ではない。
貴女は自分自身の歌と踊りに、余程自信があるようね」
「あるに決まってる」
即答する寿奈。
その瞳には、自信が宿っている。
いつも空良に見せてくれた、熱い炎のような瞳。
「だって君の仲間にも、それは言えるよ。
皆君を信じて、この計画に参加したように。
私も自分や皆を信じて、歌で元に戻す。
それが例え、成功するかどうかわからなくても。
でも、やる以外にそれを確かめる方法はないから。
だから、私はそうやってライブに挑んできた。
信じれば、人は何度失敗しても立ち上がれる。
いつかは、成功出来る。
服部先輩は、死ぬまで私にそう言っていた」
そして寿奈は向かう。
己を信じ、仲間を信じ、世界を信じ。
そして、先輩を信じて。
――ステージへと。




