フェイク、そして敗北
音楽は、無情にも再生された。
予め耳栓をしてはいるが、音が聞こえなくては重美の攻撃を躱すことが出来ない。
空良は落とした銃を拾い、心を落ち着かせる。
別に敵を止められなくて良い。
音楽さえ止められれば、完全に洗脳されてしまうのを防げるかも知れない。
確実が好きで、可能性に対しては半信半疑になってしまう空良はそう考えた。
勿論、半信半疑だ。
だが、今自分に出来ることなどそれしかないことは、空良にも分かっていた。
「・・・・・・この弱いピストルの弾で、何とか機械の心臓部を破壊出来れば・・・・・」
これを撃てば、ただでは済まない。
空良は確実に何かされるだろう。
だが死ぬ覚悟も、既に決めている。
寿奈の死を知ったあの日から。
「・・・・・・やるしかないッ!」
空良は引き金を引く。
銃弾は真っすぐに、機械へと向かった。
幸いサプレッサー付きのピストルだったのか、音はあまり鳴らず、スムーズに機械の中へと入り込み。
機材を、破壊した。
「いや、違う」
それは思い込みだった。
確かに壊れたような音はした筈なのに、音楽はまだ鳴りやんでいないことを、一瞬耳栓を外して確認した。
そんな筈は、ない筈なのに。
「残念だったわね、杉谷空良。
その機械は、フェイクよ」
気付けば、重美に抱きかかえられながら北子が目の前に現れていた。
重美は耳栓だけを斬り、鮮明に音が聞こえるようになった空良を投げ飛ばす。
「これで、私の勝ちよ」
それが、空良が訊いた最後の言葉。
脳が真っ白になりそうだった。
体と神経の接続が解除され、そのまま眠ってしまいそうだった。
――これが、結末なのか・・・・・・。
空良は、何も出来なかった。
寿奈の為に、何か出来ると思っていたのに。
それはただの思い上がりだった。
今体が動いたとしても、恐らく空良は何も出来ない。
もう分かっていた・・・・・・。
「ちゃん・・・・・・しっかりして、空良ちゃん!」
ああ、夢でも見ているのだろう。
もう寿奈は死んだ。それは分かっている筈なのに。
空良の瞳は、寿奈の顔を映し、耳は寿奈の声を聞きとり。
体と神経が、再び接続を開始した。
「寿奈、ねえさん・・・・・・」
寿奈がこくり、と頷く。
そこでやっと、それが現実の寿奈であることを理解した。
もう一つ、理解したことがある。
「どけぇッ!」
優が、重美を不意打ちで蹴り飛ばし。そのまま北子の顔面に拳を突き刺した。
「私の後輩達になんてことしやがるッ!」




