交わす剣舞
「姉さんを殺した罪、償ってもらうぞ」
空良の言葉に、北子――と思われる女性は眼鏡のブリッジを上げて答えた。
「まさか来るとわね。なんで分かった?」
「貴様、星夜真友を知っているか?」
北子の問いに、空良も問いで返す。
図星を指されたからか、驚いた顔をして、吐き捨てるように北子は呟く。
「ちっ・・・・・・あいつやりやがったな」
「安心しろ。裏切ったんじゃない。
私が裏切らせたんだよ」
「どんな手を使ったんだ!」
恐らく彼女は、かなりの実力を持つ科学者なのだろう。
その化けの皮が剥がれる様を心で嘲笑いながら、北子の精神を削ぐように言葉を奏でる。
「教えた所で、貴様はどうするんだい?
もうこれで全ておしまいだ。
ちょいと恨みを晴らした後に、貴様の悪事の全てを警察に伝える。
残念だったな、灰原。
殺すなら、私にするべきだったよ」
これで言い返せまい、と空良が思ったその時。
「・・・・・・くくく。
あははははははははははははははははははははッ!!」
狂喜。
今の北子の笑いを表現するには、その二言しか空良は思いつかなかった。
「恨みを晴らす為の死闘に、勝ったつもり?
ざぁーんねん。重美だけが、私の戦力じゃないのよッ!」
態度を急変させた北子。
言い終えた頃には、そこにいなかった。
空良の腹に、右拳をめり込ませ、狂った笑みを浮かべていた。
「ぐおっ!」
一直線に吹き飛ばされ、壁にぶち当たる。
「空良!」
秀未が空良の代わりに反撃しようと飛び込む。
だが、その攻撃は女剣士――重美によって防がれた。
「やりおるわ・・・・・・」
重美は秀未の言葉に対しても口を開かない。
いつもの秀未の、クールな態度とは違う。完全な無感情。
彼女はまるで、無機物のようだった。
「空良・・・・・・お前はここで逃げろ!」
競り合いの最中、秀未が立ち上がった空良に言う。
空良に、逃げろと。
「何を言ってるんですか!
ここで私が逃げたら先輩死にますよ!」
「だがお前も死ぬ!
だったら、片方でも生きていた方が良いだろう。
お前が死んだら、ライブは出来なくなる。
これ以上、メンバーを死なせるわけにはいかないッ!」
重美を押し出した秀未。
かつて自分を叱った時と同じ、熱い表情を向けて、空良に最後の言葉を残す。
「杉谷空良。また会おう!」
空良はその場から逃げた。秀未の指示通り。
しかしこうしてホテルに戻っている間も、空良は罪悪感を覚えている。
「くっ・・・・・・」
自分の愚かさを悔いた。
最近は色々褒められることが多かった為か、調子に乗っていたのかも知れない。
自分の力でなら、どんな危機も解決出来ると、身の程知らずな事を思っていたのかも知れない。
自分より上はいる。人はミスをする。
そしてミスによって、自分や誰かが死ぬことだってある。
だから寿奈が殺されそうになっていることに気付けなかった。
分かっている“つもり”や中途半端な力は、逆に敗北の原因となる。
秀未はそれを全て理解した上で、自分にああ言ったのだ。
「勝って下さいよ、先輩!」
空良はそのまま木の上に飛び移り、自分の部屋のベランダまでもう一度ジャンプした。




