突撃
数分後、空良達は研究所近くのビルの屋上にいた。
「じゃあ、点火しますよ」
カシャ、と空良はマッチの先端を木に擦り付ける。
すぐに火が点き、あとは研究所のドア前に置いた瓶の中にマッチを投げ入れれば第一段階は成功だ。
「それで、どうするんだ?」
「特に大したことはしません。もうこれは、自分の運と集中力の問題です」
そう言ってから、空良は頭の中で狙いを定める。
幸い今は無風状態。
風の動きなどは計算に入れる必要はない。
全ては投げる勢いと向きで決まる。
「失敗は許されない、んだよね」
全てはライブを成功させる為。
そして、寿奈の仇を討つ為。
作戦実行中の如何なる時でも、油断も失敗も許されない。
慢心を抱いた時点で、空良達は死ぬのだ。
だけど、アイドルらしく笑顔で。
成功のビジョンを思い描きながら。
「ッ!」
空良は、マッチ棒を投擲した。
弾丸よりは遅いが、そこそこの速さで、火薬瓶まで進んでいく。
回転せず、矢のように。
最後まで一定の速さで進んだ火の点いたマッチは、狙い通り瓶の中に入り。
内部の火薬と反応して、ドガンと大爆発を起こした。
周辺の一部が吹き飛び、瓦礫が此方まで飛んでくるが、空良達は何とかビル内に隠れる。
そのまま頃合いを見て階段を下り、ビルから出た。
「爆破完了」
空良が口に出してから、研究所に侵入する。
そこはガラスの奥にある大きな実験室と、何かを操作する為のスイッチ、そして会議室らしきものがあるだけの狭い所だった。
本当にこんな場所で、世界を操る為の研究をしているのか、と疑いたくなるレベルで。
だが、反対に言えば気付かれにくい。
こんな場所など、テレビにでも出なければ普通の人間は全然気付かない筈だ。
そしてテレビは、この研究所を映さなかった。
ならば、研究の事を全て知る人間は限られている。
それが恐らく、敵の狙い。
「まあそんなことはもうどうだって良い。
ここにいる奴らを倒して、全てを知る」
この先に、全てがある筈だ。
空良は意を決して、唯一光が灯る会議室のドアを蹴破った。
「姉さんを殺した罪、償ってもらうぞ」




