心配事
こんな事、今まであっただろうか。
私はここ最近、一人で踊りと歌の練習をしていた。
家――と言っても仮住まいのアパートではあるが、そこにも帰らず、一人で部室での寝起きを繰り返している。
これは、寿奈の葬式の日から始まった事だ。
何となく、家に帰る気分で無くなった真宙達は、部室に泊まることにしていた。
三人一緒にいることで、寿奈がいない悲しさと、秀未達を襲ったという人達への恐怖を抑えられるかなと思って自分が提案したのだが、恐怖は消えても、悲しさは消えなかった。
だが空良と秀未はいない。
提案したその次の日には、二人は何も言わずに何処かへ行ってしまった。
二人の家にも行ったが、帰っていないようで、秀未は一度だけある用件を済ませる為に帰っては来たが、急に行ってしまったようだ。
そんな事があり、真宙は今一人で練習している。
二人が何処で何をしているのか、知らないまま。
自分で言うのも難だが、ハードな練習をしたにも関わらず、食事は喉を通らない。
嫌な予感だけが、今日も真宙の心を支配していた。
「・・・・・・」
真宙は思う。
今年度で、自分が関わった人達は、本当に凄い人達なのだと。
寿奈は、姉に勝るとも劣らない実力を持つアイドル。基本的に、自分も含めて『Rhododendron』のメンバーは、踊りや歌が他のチームより秀でているわけではない。
『Rhododendron』は寿奈のアクロバットと歌があってこそのチームだ。彼女がいないことで積み重ねてきた敗北は、真宙も味わっている。
秀未は、全国クラスの実力を持つ剣道部員。だから不良に絡まれたくらいでは倒されはしない。真宙はそんな彼女にいつも守られていた。
そして、空良。最初空良を見た時、彼女は恐らく自分よりも実力は下だろうとみくびっていた。だが真実は違った。彼女の凄さは、相手の心理をつくことが出来るだけではない。
潜在能力は寿奈よりも高く、この一年で寿奈と並ぶくらい――いやそれ以上の実力を手に入れた。
彼女が主導になれば、相手の心理を突く踊りをその内考えるかも知れない、とも言われている。
そんな三人と、この一年を共にして思った。
自分は何か出来ているのだろうか。
今ここにいないのは、何か重要な事をしているからではないだろうか。
もしかしたら、寿奈に関する事で何かをしているのかも知れない。
だとしたら、何も出来ていないのは自分だ。
自分はただ、感謝祭の練習しかしていない。
「・・・・・・きっと、帰ってくるよね」
自分は何も出来ていないかも知れない。
ならば、真宙が出来ることは一つだ。
二人から事情を聞き、謝罪し、そして抱きしめることだ。
そろそろ先輩達も帰ってくる時期だ。
いつまでもこんな気持ちではいられない。
「頑張っていますね」
疲労による荒い息を吐きながら、真宙は聞いた。
先輩達の声を。
「ご、合同練習を始めるよ・・・・・・」
風魔琴実と伊賀崎道女の二人が、部室の扉を開けてそう言っていたのを。
「せ、先輩!」
「あれ。ですが、秀未さんと空良さんが見当たりませんが・・・・・・」
琴実が部室を見回しながら言う。
「それが、最近二人の姿を見ないんです。
それよりも、優先輩はいないのですか?」
真宙の問いに対し、道女が俯いた。
代わりに琴実が、口を開く。
「実は――」




