カフェにて 空良と秀未
「聞けたのか?」
「慌てないで下さいよ先輩。全て上手くいってます」
空良はポケットからレコーダーを取り出し、秀未に投げる。
そこには空良と真友の会話の全てが録音されていた。
再生が終わった後、秀未が問う。
「何で刹那家の事を知っていたんだ?」
「まあ色々あったんですよ。冬季大会の前に」
――別に難しい事はしていない。真友と組むことになった時に、刹那家の中にも入れさせてもらった。真友が離れている隙に、少し刹那家の中についても調べた。
そこで得た情報は五つ。
一つ目は、刹那家次期当主は刹那芽衣の妹である事。
二つ目は、執事の数は三十人である事。
三つ目は、少し血の匂いがきつい部屋が存在する事。因みにそこへの入室は許可されなかった。
四つ目は、真友が秘密裏に研究をしている事。
重要なのは五つ目。二年間で執事が殺害される事件が相次いだ事だ。
五つ目に関しては、流石に刹那家のどこにも資料が無かった。
だが血の匂いがきつい部屋と、ある二つのものが、そこで殺人が行われた事をほぼ確信に導いた。
片方は、焼却炉付近で発見されたものだ。一部が焦げてはいたが、服によく使われる素材であることは明らかだった。
そしてその一部には、血痕が付着していた。
殺人の際に着用していた服を焼却処分したのだろう。
もう片方は、正子の家で見つけた。
正子の持っていた、刹那芽衣と刹那家に関する資料。
正子が生きていた当時、刹那家の執事は四十名以下。
その内数人が今の刹那家の名簿から消えている。
他には、芽衣の性格についてのデータ。
教育係の言う通り、完璧な存在になろうとはしているが、それが出来ずに自分より強い他人は人知れず排除している、と書いてあった。
その教育係が真友なら、真友は芽衣にそう教えられる器では残念ながらない。
大会の為に、わざわざアシストスーツまで着るような人だと他に知られれば、刹那家での評価は下がってしまう。
それは十分動機となり得ると判断した結果、真友をそれで脅したのだ。
本当だと言われた時は、流石に驚いた。
空良が言った事はほぼ仮説であり、本当にそうだったのか、は全く知らないのだから。
「なるほどな。
して、これからどうする?」
秀未が空良に訊く。
「多分これ以上の調査の必要はありません。
あとは、どうするかです。
あの二刀流の研究員は、正直言って厄介です。
ですから、それなりの準備はするべきです」
恐らく、それは秀未も十分理解していることだ。
あの剣捌きは、人とは思えない。
まるで、人を斬る為に造られた何か。そう表したいくらいのものだった。
「木刀ではなく、別の得物でなければ、恐らく勝てません。
私も、それなりの準備をしましょう。
共に、寿奈姉さんの仇をとるんです」
空良は笑う。いつものように。
これなら、勝てる。そう確信した笑みだ。
「そうだな。
私も、寿奈先輩の仇をうちたい。
だから、お前に協力してほしい」
改めて、二人は握手した。




