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今日からアイドルを始めたい!  作者: 心夜@カクヨムに移行
ファイナルライブ編 杉谷寿奈よ、永遠なれ!
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空良VS秀未

葬式の日の夜。午後十時。

 杉谷空良は――学校にいた。

 勿論、秀未と真宙もいる。

 空良も、秀未も真宙も、自分の家に帰る気分ではなかった故だ。

 静かに夕食を済ませ、眠る準備をしていた時に、ふと空良が言った。

「秀未先輩、少し外に出ませんか」

 表情を変えずに、秀未が答えた。

「構わないが」

 

 空良と秀未は、部室前の広場で向かい合っていた。

 空良は拳を、秀未は木刀を構えている。

「何のつもりだ?」

 眉を潜める秀未。

 空良はニヤリと笑う。

「少し勝負をしようと思いましてね」

「勝負?」

「ええ。シンプルな勝負です。

秀未先輩は、木刀を腹に当てることが出来れば勝ち。

私は秀未先輩のどこか一部分でも拳を当てられれば勝ち。

ただの腕試しです」

 これには、意味がある。

 だが肝心の相手である秀未は、それに気付かなかったらしく、

「何故だ?」

 こう問い返してきた。

 空良は再び、あの時の事を思い出しつつ答える。

「今日、秀未先輩も私も、寿奈姉さんを殺した人の仲間に勝つことが出来ませんでした。

私達は感謝祭までに、寿奈姉さんの仇を討たなくちゃいけない。

違いますか?」

 秀未ははっとする。

 そのまま元の表情に戻る秀未。

「確かにその通りだ。だが、敵が何者かも分からない状態で猛進した所で、意味などないぞ」

「分かっていますよ、それくらい。

だから、この勝負が終わった後話しましょう。

敵の正体について。二人で考えるんです。

幸い、私と秀未先輩は対人戦闘スキルがあります。

何か出来ることは、ある筈です」

 その言葉が、戦前の最後の言葉。

 二人は再び構え、両足を開く。

 一つの風が過った後。

 

 二人は、同時に駆けだした。

 

 秀未が放ったのは刺突。胸を貫く一撃。

 だが心臓の位置からは少し下にずらしてある。腹へ攻撃する為だ。

 最初からそれをすることは読めていた。

 明智秀未――中学時代、県の大会で毎年優勝する程の実力者。

 情報によれば、秀未はほぼ全試合、突きで相手に止めをさしていたのだ。

 それも相手に見えないような動きで。

 普通ならば、防御することも困難だろう。

 だが、これは剣道の試合ではない。

 空良は、木刀の刀身を掴み、そのまま背後に投げ飛ばした。

 ドサリ、と秀未が地面に叩きつけられる音。

 木刀を構えなおし、彼女は再び立ち上がった。

「そうでなくちゃ」

 少し笑ってから、空良は再び拳を秀未に振るう。

 攻撃は秀未の木刀に当たり、ゴン、という音が響く。

 そう簡単には、拳を当てられなさそうだ。

 空良が放つ拳は、秀未が精密な剣捌きで弾かれていく。

 ならば、と次に右回りに回し蹴りを放つ。

 ――行ける。

 勝利を確信した空良。

 だが蹴りは既の所で止められた。

 木刀で防がれ、弾かれる。

 次いで秀未は、連続で突きを放ってきた。

 木刀の切っ先が、まず右脇腹の近くを突き刺す。

 よくある戦法だ。避けることを前提にして、あえて攻撃する位置をずらす。

 そして避けない事が分かれば、大抵の人間は次に正面を狙う。

 最後の一突きは――、と考えていたその時。

 ゴン、と鈍い音と痛みが空良を襲った。

 秀未は突きではなく、先に空良が避けた剣を薙いだのだ。

 その勢いで、空良は横にゴロゴロと転がされた。

 脇腹を押さえながら立ち上がり、埃を祓う。

「参りました」

 空良は思う。

 正攻法では、まだ自分は秀未に一撃を当てることすら叶わないと。

 だが秀未も、あの女相手では防御すら出来なかった。

 深い絶望感に襲われそうになるが、それを振り払い、前向きに自分に言い聞かせる。

 自分は勝てる、と。

「中々だったな、空良」

 木刀をケースに収納した秀未が、珍しく笑みを浮かべて言う。

「これでは、あいつらには勝てません。

私はどうしても、寿奈姉さんの仇を討ちたい。

だから、修行と情報収集を手伝ってほしいんです」

 改めて、自分を負かした相手に懇願する。

「ああ、任せろ。

何としてでも寿奈先輩の仇を討ち、ライブを成功させるぞ」

 秀未はそう言って、右手を差し出す。

 空良も、右手を差し出し、堅く握手を交わした。


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