大会 その三
「寿奈さん! 服部さん!
そろそろ起きないと遅刻しますよ!?」
琴実先輩の声で、私は目覚めた。
時計を見る。もう朝八時、今から行かなければ会場に間に合わない。
「あ、今行きますッ!」
だがそこで、呼ばれたもう一人が起きていないことに気付いて。
「服部先輩、起きて下さい」
「まだ八時じゃないか・・・・・・」
「今から行かないと遅れますよ!」
まだ完全に起きていない服部先輩を強制連行し、チェックアウトした。
秋葉原駅から水道橋駅まで電車で約三分。そしてそこから徒歩で九分。
東京都文京区にある、会場は私の想像よりも遙かに大きかった。
『国立 日本ライブドーム』。それがアイドル大会の会場だ。
三年前まで『東京ドーム』と言われていた建物を改築し、完全にコンサートのみに特化させた、スクールアイドル・プロアイドルを含めたアイドルの為のライブ会場。
因みに東京ドームは、新東京ドームとしてここから少し離れた場所にある。
「こんな凄い会場で歌うんですか・・・・・・?」
「そうです・・・・・・。私も一年前、服部さん達とここで歌いましたよ」
口をあんぐりと開けて驚く私に、冷静に琴実先輩が言う。
「行こうよ皆。ここで止まってても、仕方ないよ!」
完全に覚醒した服部先輩はそう言うと、すぐに会場に駆け出した。
「待って下さいよー!」
私もその背中を追いかける。
凄いのは外観だけではなく、中身もだ。
既に客も他のアイドルグループもおり、緊張は更に高まったが、それを抑えながら服部先輩を待つ。
「えー、『Rhododendron』の皆さんですね?
貴女方の出番は、先にお伝えした通り、一番手です。張り切って下さいね!」
一番手。それは前に琴実先輩が言っていたように、前座ということだ。
だけど、前回のように0票にはさせない。
私というイレギュラーが入ったことで、どう変わるか。それが今回の私達の重要な点だ。
楽屋で着替えと化粧を済ませてから、服部先輩と共に楽屋を出る。
そこで、一組のアイドルグループを見つけた先輩が彼女達に声を掛けた。
「久しぶりね」
そのグループは三人組だ。
そのリーダーらしき、黒髪ツインテールのクールな女性が答える。
「だね、服部正子さん」
この人達、服部先輩を知っている?
リーダーらしき女性が、私を見やり、再び口を開く。
「見ない顔だね。新入り?」
「あ、私は杉谷寿奈です。一年生です」
リーダーはバカにしたように笑ってから、服部先輩を見る。
「こんな子を入れてどうしようって言うの?
貴女達は去年の冬期大会、得票0で負けたの。だから今回も同じよ」
それに反論したのは先輩ではなく私。
「そんなこと、やってみなきゃ分からないじゃないですか!」
「よく言うね、杉谷寿奈さん。
スクールアイドルになり立ての、ヒヨコにしては。
せいぜいこの世界の辛さを思い知ることね」
リーダーはそれを言い残し、楽屋に戻ろうとしていたが。
忘れていたように、「あ」と言ってから私に振り向き。
「あ、そうそう自己紹介を忘れていたわ。
私の名前は雪空千尋。チームは『Rabbitear Iris』よろしくね」
雪空はドアを開け、楽屋に戻る。
「気を抜くなよ、寿奈。あいつら、前回の優勝者であり、優勝候補」
優勝者であり優勝候補。私達にとって最大のライバル。
私の緊張は、更に高まる。
そして、私達の出番が来た。