嘆き その四
その情報は、あらゆる場所へと拡散し、大騒ぎになった。
『Rhododendron』メンバー・杉谷寿奈の死。
結局、空良の願いは叶わなかった。
警察の人が持ってきた遺品箱に、その中身。
それが、あの後気絶して目覚めた空良に現実を教えた。
杉谷寿奈が死んだという事を。
それから、寿奈の母、部員全員、そして日本のスクールアイドル全員に伝わった。
二日後、寿奈の遺体も運ばれてきた。
無残なもので、それが寿奈なのかどうか分からないくらい黒焦げにされていた。
殺された、らしい。
犯人は既に自首し、刑務所にいるが、自分が殺した以外の情報を一切話していない。
葬儀には、沢山の人が駆け付けた。
寿奈の家族、仲間、だけでなく、ファンやスクールアイドルも。
皆寿奈の死を悲しみ、そして嘆いていた。
改めて、寿奈がどれだけ凄い存在かを思い知らされた日である。
葬儀が終わり、出棺の儀に入る前に、空良は棺桶の前に立ち、口を開いた。
「貴女は杉谷寿奈、でしょ?
この世界で一番のスクールアイドルで、『Rhododendron』の光だった杉谷寿奈だろ?
だったら、起きろよ。
起きろよ!!」
自分と寿奈を殺した者への怒りと、寿奈の死に対する悲しみ。
それが混じった声を、空良は吐き出す。
今からでも、寿奈を殺した犯人を惨殺したい気分だ。
または、そう。
自分の命を犠牲にして、寿奈が蘇るのなら、喜んでそうしたい。
常に冷静でいられる筈の自分が、今は激しく心を乱していた。
そのせいで、子供みたいな事しか言えない。
そんな事にも気付けないくらい、空良の心は追い詰められていた。
「落ち着け、空良」
肩を掴みながら、秀未が言う。
「寿奈先輩は死んだ。もう受け入れるんだ。
貴様がいくら嘆いた所で、もう蘇らぬよ。
感謝祭を成功させてから、好きなだけ泣け」
無慈悲な言葉――だが正論を浴びせられ、空良は崩れる。
「すっかり弱くなったな、私・・・・・・」
前まで自分と自分以外の人間の観察以外興味なかった自分が、一人の恩人の死に嘆いている。
もし寿奈が生きていれば、そんな事無い、と否定してくれるだろうに。
涙が、滴る。
そしてその間にも、棺桶は運び出されていた。
葬儀の後、空良は会場に残った。
未だにあらゆる謎は残ったままだが、秀未の言葉で冷静になり、ただ黙って座っていることしか出来なくなった。
納得いかない。
寿奈の死を認められない。
このまま目を閉じて、ただただ成り行きに任せよう。
「杉谷空良、だね」
意識が戻る。
そこにいたのは、白衣を纏う女性だった。
「悪いけど、話しかけないでくれ」
今は誰の質問にも答える気になれない。
故に拒絶したのだが。
「杉谷寿奈が死んだ理由、知りたくないですか?」
その言葉に、寿奈の死を告げられた時と同じくらい瞳孔が開く。
この人は、何かを知っている。
冷静になれず、興奮して、胸倉を掴み上げた空良。
「そこまですることは無いだろう?
教えてやる。
寿奈が死んだ理由は、我々の計画の邪魔だったからだ。
我々を統率する者は、秘密裏に寿奈を殺すよう手配した。
だから死んだ。
それだけだよ」
「うわあああああああああああッ!!」
空良は胸倉を掴んでいた研究員を、地面に叩きつけた。
倒れた女性に怒りをぶつけるべく、背中を何度も蹴る。
背骨が砕けた音が聞こえたが、それにも構わず何度も蹴る。
女性が気絶しかけた所で――。
空良は、右腕を何者かに傷付けられた。
振り向くと、そこには女性と同じ格好をした者がいた。
黒い長髪で、鋭い瞳が特徴的の女性。
彼女は両手に一本ずつ、真剣を装備していた。
「漫画かよ・・・・・・。まさか本当の二刀流剣士に傷付けられるとはね」
傷から血が出たことによって、少し冷静さを取り戻せたのか。
空良は、いつもの口調で軽く挑発した。
「・・・・・・」
相手は言葉を発さない。
再び二本の刀を構えて、空良に襲い掛かった。
「空良ッ!」
金属と木がぶつかる音。
木刀を構えた秀未が、自分の前に立っていた。
「秀未先輩」
「空良、貴様は逃げるんだ!」
厳しい表情で、秀未が命令する。
やはり木刀で、真剣を防ぐのは不可能のようだった。
木刀は斬れ、すぐに秀未は刀使いに蹴り飛ばされる。
「ぐッ!」
「・・・・・・」
何も言わず、剣士は空良が背骨を砕いた女性を連れて逃走する。
空良はただ、黙って見ているしかなかった。
「おい、あやつらは何者だ・・・・・・」
痛みにもがく秀未。
空良は、落ち着いて答えた。
「寿奈先輩を、殺した奴らの仲間・・・・・・」
怒りに満ちた目で、もう見えない剣士の背中を見た。




