表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日からアイドルを始めたい!  作者: 心夜@カクヨムに移行
ファイナルライブ編 杉谷寿奈よ、永遠なれ!
119/168

嘆き その四

その情報は、あらゆる場所へと拡散し、大騒ぎになった。

 『Rhododendron(ロードデンドロン)』メンバー・杉谷寿奈の死。

 結局、空良の願いは叶わなかった。

 警察の人が持ってきた遺品箱に、その中身。

 それが、あの後気絶して目覚めた空良に現実を教えた。

 杉谷寿奈が死んだという事を。

 それから、寿奈の母、部員全員、そして日本のスクールアイドル全員に伝わった。

 

 二日後、寿奈の遺体も運ばれてきた。

 無残なもので、それが寿奈なのかどうか分からないくらい黒焦げにされていた。

 殺された、らしい。

 犯人は既に自首し、刑務所にいるが、自分が殺した以外の情報を一切話していない。

 

 葬儀には、沢山の人が駆け付けた。

 寿奈の家族、仲間、だけでなく、ファンやスクールアイドルも。

 皆寿奈の死を悲しみ、そして嘆いていた。

 改めて、寿奈がどれだけ凄い存在かを思い知らされた日である。

 葬儀が終わり、出棺の儀に入る前に、空良は棺桶の前に立ち、口を開いた。

「貴女は杉谷寿奈、でしょ?

この世界で一番のスクールアイドルで、『Rhododendron(ロードデンドロン)』の光だった杉谷寿奈だろ?

だったら、起きろよ。

起きろよ!!」

 自分と寿奈を殺した者への怒りと、寿奈の死に対する悲しみ。

 それが混じった声を、空良は吐き出す。

 今からでも、寿奈を殺した犯人を惨殺したい気分だ。

 または、そう。

 自分の命を犠牲にして、寿奈が蘇るのなら、喜んでそうしたい。

 常に冷静でいられる筈の自分が、今は激しく心を乱していた。

 そのせいで、子供みたいな事しか言えない。

 そんな事にも気付けないくらい、空良の心は追い詰められていた。

「落ち着け、空良」

 肩を掴みながら、秀未が言う。

「寿奈先輩は死んだ。もう受け入れるんだ。

貴様がいくら嘆いた所で、もう蘇らぬよ。

感謝祭を成功させてから、好きなだけ泣け」

 無慈悲な言葉――だが正論を浴びせられ、空良は崩れる。

「すっかり弱くなったな、私・・・・・・」

 前まで自分と自分以外の人間の観察以外興味なかった自分が、一人の恩人の死に嘆いている。

 もし寿奈が生きていれば、そんな事無い、と否定してくれるだろうに。

 涙が、滴る。

 そしてその間にも、棺桶は運び出されていた。

 

 葬儀の後、空良は会場に残った。

 未だにあらゆる謎は残ったままだが、秀未の言葉で冷静になり、ただ黙って座っていることしか出来なくなった。

 納得いかない。

 寿奈の死を認められない。

 このまま目を閉じて、ただただ成り行きに任せよう。

 

「杉谷空良、だね」

 意識が戻る。

 そこにいたのは、白衣を纏う女性だった。

「悪いけど、話しかけないでくれ」

 今は誰の質問にも答える気になれない。

 故に拒絶したのだが。

「杉谷寿奈が死んだ理由、知りたくないですか?」

 その言葉に、寿奈の死を告げられた時と同じくらい瞳孔が開く。

 この人は、何かを知っている。

 冷静になれず、興奮して、胸倉を掴み上げた空良。

「そこまですることは無いだろう?

教えてやる。

寿奈が死んだ理由は、我々の計画の邪魔だったからだ。

我々を統率する者は、秘密裏に寿奈を殺すよう手配した。

だから死んだ。

それだけだよ」

「うわあああああああああああッ!!」

 空良は胸倉を掴んでいた研究員を、地面に叩きつけた。

 倒れた女性に怒りをぶつけるべく、背中を何度も蹴る。

 背骨が砕けた音が聞こえたが、それにも構わず何度も蹴る。

 女性が気絶しかけた所で――。

 

 空良は、右腕を何者かに傷付けられた。

 

 振り向くと、そこには女性と同じ格好をした者がいた。

 黒い長髪で、鋭い瞳が特徴的の女性。

 彼女は両手に一本ずつ、真剣を装備していた。

「漫画かよ・・・・・・。まさか本当の二刀流剣士に傷付けられるとはね」

 傷から血が出たことによって、少し冷静さを取り戻せたのか。

 空良は、いつもの口調で軽く挑発した。

「・・・・・・」

 相手は言葉を発さない。

 再び二本の刀を構えて、空良に襲い掛かった。

「空良ッ!」

 金属と木がぶつかる音。

 木刀を構えた秀未が、自分の前に立っていた。

「秀未先輩」

「空良、貴様は逃げるんだ!」

 厳しい表情で、秀未が命令する。

 やはり木刀で、真剣を防ぐのは不可能のようだった。

 木刀は斬れ、すぐに秀未は刀使いに蹴り飛ばされる。

「ぐッ!」

「・・・・・・」

 何も言わず、剣士は空良が背骨を砕いた女性を連れて逃走する。

 空良はただ、黙って見ているしかなかった。

「おい、あやつらは何者だ・・・・・・」

 痛みにもがく秀未。

 空良は、落ち着いて答えた。

「寿奈先輩を、殺した奴らの仲間・・・・・・」

 怒りに満ちた目で、もう見えない剣士の背中を見た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://ncode.syosetu.com/n1678eb/ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ