嘆き その一
前回までのあらすじ
冬季大会に優勝し、卒業式を迎えた寿奈。
これで物語は終わりかと思ったが、一通の手紙が新たな物語を呼んだ。
それは『Rhododendron感謝祭』。
冬季大会優勝者に対する特典で、三月三十一日に行われるものである。
感謝祭に対して気合が高まる中、更に知らせが来る。
琴実達が、大学生のスクールアイドルの世界大会でイギリスにいるというものだ。
大会を見に行く為イギリスに向かう寿奈達。
そこで様々な出会いを経験し、各々の過去が更に明らかになる。
大会は惜しくもイタリア代表オルゴリオに敗れてしまうが、優達は自分達が成長したことを喜ぶ。
そんな優達がロンドンに残り、寿奈達は日本に戻ろうとするが、寿奈は空港員に誘拐されてしまい、殺されてしまう――。
遺された空良達の運命は如何に。
茶色の髪が一本、目の前の少女から抜け落ちた。
それは空良の顔に当たり、髪から漂う香りが、鼻腔を刺激する。
甘い臭い。
まるで少女の性格のような。
だが、そこには優しさと、すぐ消えてしまいそうな危うさを秘めている。
だから、この臭いを守っていたい。
独り占めしたい。
あの日、救ってもらってから、空良は彼女の虜である。
観察対象ではなく、かけがえのないものへと変わった。
感謝祭が終われば、少女は日本を離れると言っていた。
それは少し寂しいが、我慢する。
永遠に会えないわけではない。
すぐに戻ってくる。
本当の意味で、自分の前から消えたりはしない。
そう、信じていた。
一発の銃声。
先程まで白一色だった景色が、赤一色へと変じ、不安を掻き立てる。
目の前では、うつ伏せに茶髪の少女が倒れている。
背中には銃弾に貫かれたと思しき穴。
そこから血が溢れ出している。
やがてそれは、自分の足下を覆いつくした。
顔を見る。
肌は障子紙のように白く、目を開けた状態で死んでいる。
「寿奈姉さんッ! 寿奈姉さんッ!
寿奈姉さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
自分の声が、寿奈には届かない。
周りを見る。
赤一色の空間に一つだけ、黒い穴。
そこに行けば何かが分かるかも知れない。
そう信じて、空良はそこに駆ける。
穴に入る前に、吸い込まれるようにして空良は穴を通り、白い空間を超えて辿り着いた先は。
雨の日の東京だ。
だが様子がおかしい。
まずよく見えるのは、『Rhododendron感謝祭』の文字。
これは、感謝祭の予知夢なのだろうか、と空良は困惑する。
先の赤い空間における寿奈の死と、感謝祭の予知夢。
繋がりが見出せない。
不安になりながら、そこを歩く。
人が倒れている。
死人のように、彼らは立ち上がる気配を見せない。
だが血は流れていない。
ますます分からなくなってきた。
そのまま空良は、ステージの所まで駆けていく。
そこで見た。
寿奈以外の仲間が、倒れているのを。
自分の先輩達が、皆死んだように倒れている。
空良は驚きを隠さずに、まず優の意識を確認しに行く。
格闘技の師匠である、優に。
「優先輩! 優先輩!
しっかりしてください!」
鼓動がない。
優はやはり死んでいる。
他の先輩達も確認したが、結果は同じだ。
息が荒くなり、不安が募る中で。
空良は新たな人影を見た。
白衣姿の女性二人。
一人は銃を、もう一人は二本の剣を構えている。
それを倒さんと、空良は拳を構える。
そのまま地を蹴る。
だが相手の方が速かった。
二刀流の研究員が素早く空良の腹を捌き。
空良はそのまま、絶命しする。
意識が途切れる瞬間、空良は見て、そして聞いた。
研究員が笑いながら、口ずさむのを。
「これで、世界は完成した」
 




