一時の別れ、杉谷寿奈死す
数日後。
空港の修復も無事完了し、私達は帰れることになった。
先輩達は、少しだけイギリスで練習をしてから合流することになっている為、少しの間別れることになる。
「またな、お前ら」
「感謝祭が楽しみですよ」
「私も頑張るよ!」
私や空良、真宙や秀未達の前に立つ先輩が一人ずつ別れの言葉を呟く。
長いようであっという間に時が過ぎた気がする。
先輩達の過去を知り、距離が縮んだようにも感じている。
絶対感謝祭を、成功させられる。
「・・・・・・」
目の前の風景を、心に焼き付ける。
スクールアイドルとしていられる時間が終わっても、寂しくないように。
私は微笑み、涙する。
残された時間の短さに、そして時間が遺されているという素晴らしさに。
大好きな、仲間に。
「おい、泣くなよ寿奈。本当に泣く所で、泣けなくなっちまうぞ?」
「す、すみません」
優先輩の指摘に、笑いながら応える。
名残惜しいが、時間はそれを許さない。
私は振り向き、そのまま手荷物チェックを受けに行く。
行こうとした、のだが。
「優先輩」
空良の声。
振り向くと、空良が優先輩に頭を下げていたのだ。
「私に格闘術を教えて下さり、ありがとうございます。
感謝祭の日までに、必ず極めます」
優は小さく口を開けていたが、すぐにいつもの笑みへと変わる。
「おう! 楽しみにしてるぞ」
空良も、先輩達との交流を深めたようだ。
一人だけお手洗いを済ませ、後輩達を先に行かせた。
あとは私が手荷物チェックを受けるだけである。
持ち込み禁止の物が無いかどうかを列の中で確認した。
「刃物なし、スプレーなし、ペットボトルなし、と」
一安心し、自分の番になってゲートを通り抜けたその時。
ビー、と金属探知機のアラート。
自分のポケットの中を確認する前に、検査官らしき女性が私に近付く。
「あー、すみません。
少し、こちらまで来てもらいますよ」
少し不服だが、ついていくしかないだろう。
何かの間違いならば良いのだが。
後ろを見る。空良達はいない。
既に彼女らは機内にいるのだろう。
何が始まるのかは分からないが、これが早く終わる事を信じ、女性についていく。
到着地点は、何故か清掃室だった。
様々な掃除道具が揃えられ、何故かは分からないが外への抜け道も作ってある。
しかも女性達は、人目を若干気にしながらここまで向かっていた。
何かおかしい。
空港の検査で引っかかっただけなのに、わざわざここまでする必要が分からない。
そのまま逃げようとしたその時。
私は、両手に手錠を掛けられた。
はっと驚いている私に、女性は言う。
「杉谷寿奈、ですね」
彼女は、私を知っている。
客の名前など知る筈の無い空港員が。
一応私はスクールアイドルだ。
だが、イギリス人の全員が知っているわけではないとは思っている。
それに、さっきから訊いていればイギリス人なのに、かなり流暢に日本語を操っている。
何目的で、かは分からないが、恐らく私を誘拐しにきたのだろう。
「そうだけど、アンタ誰なの?
何の為に、こんな事をした?」
「世界を再構成する者に、私は君の殺害を命じられた」
殺害・・・・・・つまり、私を殺す。
今までスクールアイドルをやってきて様々な出来事があったが、私が殺されそうになるという展開は今まで無かった。
怒りと恐怖を感じながら、反論する。
「私を、殺すの?」
「それが命令よ。世界の再構築の為に、まず貴女には死んでもらわなければならない」
そのまま私は連行された。
駐車場の黒い大きな車に乗せられ、何も出来ないまま、車は空港を離れる。
車で向かった先にある建物内で、私は縛られ拳銃を向けられた。
もう抵抗は出来ない。声も出せない。
もごもごと口を動かしても、それはきちんとした声にならない。
引き金に指を添えている空港員に化けていた女性が、口を開く。
「さようなら、杉谷寿奈」
銃声が、轟く。
この日、杉谷寿奈は死んだ。




