先輩達の大会 その四
結果は、二位だった。
それも、一位とは一票差の二位だ。
私から見れば、先輩達は十分戦った、そう思っている。
だが先輩達は、あと一歩の所で届かなかった。
何を話せば良いのか、私には分からない。
だが、先輩が落ち込んでいるというのは、ほぼ間違いないだろう。
私は後輩達に外で待つよう指示し、単独で先輩達の控室の前に立っていた。
ゆっくりと、二回ノックすると、部屋の中から声が聞こえた。
「どうぞ」
優先輩達の声のトーンが、いつもより低く感じた。
やはり、あんな負け方は辛かったのだろう。
ならば、無責任な希望を与えた私の責任だ。
すぐに謝ろう、と扉を開ける。
「失礼します」
そこには、結果に落胆している三人がいる――筈だった。
だが三人は、笑顔だった。
「ど、どうしたんです?」
三人は優勝出来なかった筈だ、と改めて結果を思い出す。
しかし三人の顔に、落ち込みの色は一切見えなかった。
むしろこの結果に満足している、そんな顔だった。
「今までで、一番カッコいい負け方だと思ってさ」
優先輩が八重歯を見せながら笑う。
「今まで寿奈さん無しじゃ最下位ばかり取っていましたが、今回は違います。
私達は、優勝候補とまで言われたチームと一票差で負けたのです。
勝てなかった事は悔しいですが、今までで一番良い結果です」
「寿奈さん、応援ありがとう!」
道女先輩が、私に感謝の言葉を告げる。
「はい」
私も笑顔で、それに返事をした。
自分が踊ったわけではないが、不思議と嬉しい気持ちになれた。
だが、まだ終わりじゃない。
「感謝祭では、これ以上の良い踊りが出来るように頑張ろうぜ!」
肩を掴みながら、私に言う優先輩。
「はい!」
そのテンションに負けないくらいの返事を、私は先輩に返した。
琴実先輩と道女先輩は、先に真宙達と共にタクシーに乗った。
私と優先輩は、カルラ達に挨拶をする為にオルゴリオの控え室に向かっていた。
丁度私達がドアに近付いた時、カルラ達が出てきた。
「これはこれは優さん」
「カルラ」
二人の表情は、どちらも同じく笑顔だ。
憎むのでも、誇るのでもなく。
お互いを尊敬し合う、そんな笑顔だった。
「オルゴリオをここまで追い詰めたのは、貴女方が初めてですよ。
いい勝負でしたわ」
「こっちこそ、お前ら凄いと思ったぜ」
互いに握手する二人。
「来年こそは、お前らに勝ってやる」
「私達も、再び全力で相手致しましょう」
そのまま彼女らと別れ、私と優先輩はタクシー乗り場へと歩いていた。
「踊っている途中さ、私やっぱり動きに迷いが出ちゃったんだよな」
いきなりポツリと、優先輩が呟く。
「え?」
私には、先輩達は前よりレベルを上げたように見えた。
ミスらしいミスなど、あのライブ中には見受けられなかった。
「いや、でもほんの一瞬だった。
瞬きした次の瞬間、私の前に、私らと同じ衣装着て踊るあいつの後ろ姿が見えてさ。
全く、まだ成仏してなかったんだなって、少し笑ったわ」
恐らく、それは服部先輩の事だろう。
それ以外に、先輩達に勇気をくれる存在はいない。
「私にも、見えますかね・・・・・・?」
「ああ。私だって見えたんだから、お前にだって見えるさ」
優先輩は、確信をもってそう答えた。




