『13回目』の私へ
はい、伊庭 トラの助と申します。
今回、好奇心に身を任せ、つい書いてしまいました。
楽しんでくれたら嬉しぃ〜です。
この世界には妖怪がいる。
その妖怪達は、世にも貴重な珍しいものを気にいる習性を持っている。
人間と妖怪、動物が共存する世界。
そんな世にも奇妙な世界での出来事。
ーー私には『超能力』が使える。
それは先天性のもので、私が赤ん坊のころからよく周りの人達を驚かしたものだ。
だが私はこれが嫌いだった。
この能力は『自分の意思によって、物体を動かす力』
要は『念動力』である。
私は分かっていた。
この能力を凄いと称賛する声もあれば、そう言ったものには必ず逆に考える人達もいる。
突飛した能力には、必ず『反動』というものがある事に。
そして、この能力を狙う妖怪達が必ずいる事に。
だが、その事について対策は不要だ。
何故なら私がいるこの孤児院に居れば、全てが万事休す。
この孤児院には、頼もしい妖怪がいるからだ。
その妖怪は人となんら変わらない容姿をしており、ずっと夜な夜な来る妖怪達を追い払っていた。
だから安心だと、問題無いなんて思っていた。
あんなことが起きるまでは。
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あれは私が丁度10歳の時。
いつものように周りの子供達に、物体を浮遊させ、遊ばせていた。
「やぁ結無ちゃん。相変わらず人気だね」
と言って入って来たのは大柄で、紺色の和服の男が笑って手を振っていた。
「あ、狢さん。こんにちは」
私はいつものようにその男に挨拶する。
そう、その男がこの孤児院を守る妖怪である。
しかし、たまに時々こうして中に入って来てみんなと過ごす時もある。
妖怪達は昼中は襲ってこない。それが妖怪の特性だった。そう信じていた。
私も、子供達も、ママ達も、みんな。
「俺は特別だから」と彼本人が言っていたので、信じて疑わなかった。
ーーだが事件は突然に起きた。
夕方、私の孤児院では妖怪達の恐怖に怯えないように陽が沈む前に子供達を寝かすようにしている。
いつものようにママ達が子供達を寝かしつけている時、私はいきなり尿意に襲われ、陽が沈む前に厠に急いで行った。
しばらくし、用を足し終えた私は、部屋に戻るまでの冷たい廊下をゆっくり歩いていた、その時だった。
隣の窓から何か嫌な視線を感じた。
しかも一匹ではない、何匹もの視線。
まるで鳥籠の中の鳥を見る猫の目。
私は急に不気味になって廊下を駆ける。
駆けていく最中、色々な『最悪』が私を焦らす。
なんでこんな所に?
まだ夕方なのに?
狢さんは?
みんなは?
巡り行く思考の中、確かに一つだけ分かることがある。
『奴ら』が来た……‼︎
私は冷たい廊下を息を切らしながら全速で走る。
その廊下が何故だかすごく長く感じた。
無我夢中で走り、やっとみんなが寝ている部屋の前まで来た。
これは悪い夢、きっとそうだ。この扉の向こうには大好きなみんなが待っている。
なんて自分を励まし、震えながら扉の取っ手を掴んだその時、とてつもない負の感情が全身に流れ出す。
『痛み』、『憎しみ』、『悲しみ』、『屈辱』、『怒り』…
もうこの時点で大体物事を察した。ならば今のうちに早く逃げておけば良かった。
だがその当時の私は若かった。
そのまま『恐怖』、はたまた『好奇心』の感情に突き動かされ、扉を開けてしまった。
そして目の前に広がっていたのは…
「うっ……うぇっ」
突如として鼻に刺す耐えきれないほどの血の匂い、『死臭』により波のように吐き気を催した。
それでも気絶しそうなほどの激臭になんとか耐えながら、あたりを見渡す。
「え……何……これ…」
それは部屋の各個に、黒い塊が山積みになって置かれていた。
よくは認識出来ないが、人の手のようなものが所々生えていた。
私は一瞬でそれが生き物では無い事を悟った。
「なんで、なんでこんなことに…」
と弱々しく吐いた矢先、奥の暗がりに何か禍々しい気配を感じた。
その気配はこちらに気づいたのか、ゆったりと歩いてくるのがわかった。
逃げろーー‼︎
脳が本気で身の危険を訴えてくる。
だが恐怖で足が動かない。
震えたまま、全身で恐怖を感じる。
それに比べ、気配は着々と私に向かって近づいてくる。
ダメだ…このままじゃ確実に…殺される!
必死で考える。どうやったらこの危機を生き残れるか。
だが10歳の私ができる事は、たかが知れていた。
「だ、誰?」
と暗がりに向かい震えながら叫ぶ。
そう、こういう時は時間がどうにかしてくれる。足が動けるようになるまでの時間を稼ぐことが今の小さな自分にできることだと思ったから。
すると、私の考えが当たったのか、その気配が足を止める。
だが逆にそれが、この世界における生物の『本質』を知る事になる。
「結無…ちゃん?」
その渋い声は、私も良く聞いたことがある普段の彼の声だった。
私は一瞬安堵した。
彼がこの部屋の危機に駆けつけて妖怪共をやっつけてくれた。
本気でそう思ったのだ。
「ユ無……チゃん」
「え?」
だが何故か様子が変だ。
「ユ…ム……チャ……ン」
次の瞬間、今まで黒い雲に隠れていた月が光輝き、辺りを照らすと同時に、『そいつ』が姿を現した。
そいつはもはや人の形を成していなかった。
いや、体はかろうじて人間のままだが、体は毛むくじゃら、長い尻尾、心の奥そこまで覗き込まれているような大きな目玉。そして、人一人入りそうなギザギザの牙を持つ口と、鋭く尖った爪だけ、赤黒い物体が刺さっていた。
一言で言い表すならば『異様』。
「そんな……狢さん…何で」
「……」
その真実がさらに私に恐怖を植え付ける。
しかしこの危機的状況で、私は怯え動けなくなった足にひたすら呼びかけていた。
動け動け動け動け動け動け動け!
耳元でギシッと言う音が聞こえ、咄嗟に前を見上げる。
しかし時既に遅し。目前まで来ていたそいつは、獲物を仕留めようと、血塗られた右手の爪を上げ、今にも振り下ろしそうな勢いでこちらを見ていた。
全てを悟り、全身の力を抜く。
終わった…。
そう受け入れた刹那、全身の力を抜いたおかげで、体の緊張がほぐれ、足が動けることに気がついた。ここに来て恵まれた。
だが動けるようになった所でこの状況じゃ確実に意味がない。
何かで気を反らせないか?
と頭を巡らせ、視界に入ったのは、部屋の隅の一脚の円卓机と、天井の光を無くした大きな照明器具。よくお城とかにあるやつ。
私はそれに賭けた。
私は勢いよくそいつの前に右手を差し出し、それに戸惑い始めるそいつの右側、つまり私から見た左側の方にある一脚円卓机に念力をかける。
そして、勢いよく出した右手にはそいつの向こうの照明にかけ、ゆっくりそいつの頭上に持っていく。
準備は整った。一か八か、やるしかない。
私の右手を見つめ、そいつがグルルルと唸った次の瞬間、私は思いっきり円卓机を念力で倒す。
ガタンッ‼︎
という落下音が響き渡り、そいつは音のする方へ振り向く、と咄嗟に頭上の照明にかける念力を解除する。
そしてその頭上の照明は思い通り、そいつに垂直落下し、激しい衝撃音と共に大きな砂煙が舞い上がる。
そのグシャという体が、骨が、生命が潰れる音が、私に罪悪感を感じさせた。
だが、勝ったのだ。この化け物に、自分一人で。
そいつの潰れた亡骸から、黒い血が広がり地面を黒く染めていく。
この時、私はかつての『彼』を思い出していた。
そのことを思い出した時、世界の残酷さを感じ、涙が溢れでた。
私は、止まるわけに行かない。この化け物達が住まう残酷な世界で、絶対に生き延びる。
だから私は、優しかった『彼』に最後の別れを告げた。
「狢さん……今まで……お世話になりました。だから……さようなら」
と言って、その場を後にした。
いつまで走っただろう。どこまで来たのだろう。暗い森を越え、荒野をひた走り、ただあてもなく走った。
それ故、私の体は肉体的にも、精神的にも限界を迎えていた。
体はボロボロ、喉は乾ききり、空腹に関してはもう何も感覚を感じない。
そんな私は足元を見る気力も失せ、ただ上を向いて走っていた。
完全に油断していたため、足を木の根に引っ掛け転倒。
私はその仰向けのまま、ただ雨が降りそうな
黒い雲を見つめていた。
頬を優しく撫でるそよ風が、辺りの草木も優しく揺らした頃、冷たい水の粒が、私の全身に打ち付ける。
その心地よさに、気力を奪われ、私は完全に意識を持って行かれた。
目覚めるとそこは見知らぬ部屋。私が住んでいた孤児院とは違い、畳に布団、丸机、襖、箪笥。これが、『和』というものか。
襖は全開きになっており、そこから縁側が見える。暖かな光、どうやら晴れたようだ。
しばらく和に浸っていると、その向かい側から若い、20代くらいの青年が入って来た。
その青年は私に話しかける。
「あ、起きた?」
「……あ、あのーー」
「ちなみに、オレ、何に見える?」
といきなり聞かれたので少々戸惑ったが、彼の顔をまじまじと見ると、それは私がママの話でしか聞いたことのない、普段は人間と変わりない容姿で、二本頭から角が生えている力の強い妖怪。
『鬼』の表徴が彼にあった。
「お、鬼…」
すると彼は何故が嬉しそうに笑って声をあげる。
「そう‼︎正解。オレは鬼の鬼述 悠士。一応、昨日の夜、森ん中で倒れてた君を見つけてね。まぁ起きてくれてよかった。君は?」
「え…あ……ゆ、結無」
「結無…うん、よろしく」
「あ、あの。」
「ん?」
「ここは…」
「ああ、ここは"天幻村"。何か特殊な力であらゆる生物を引き寄せるのがこの村。ていうか村って言っても面積で言えば四国の半分くらいあるけどな」
「あらゆるもの…」
「そ。まぁ今はそんなに気にしなくていいよ。でも、まずはーー」
ギュルルルルルゥゥ。
体が安心したのか腹の底から捻るように音がでた。我ながら恥ずかしい。
すると、隣の彼は、私の腹の音を聞いて、にっこり笑う。
「ははは、よかったな。ちゃんと生きてるぜ」
「…?」
「腹がなるという事は、体が生きようとしている事で、命を欲している事。何事もまず飯から、だよ」
その言葉に深く共感した。私みたいに決められた時間に、なんら変わらないご飯を当たり前のように食べる事に比べ、今日を生きる為に命を頂き、毎日汗水垂らして糧にして来た
人とは『命の尊さ』というものが格段に違う。
「じゃあ頂きます」
「…いただきます」
彼の食卓には、ピカピカの白米、程よく焦げた焼き魚、味噌汁。非常に庶民的な料理だ。
私はそれらに手を伸ばし、白米、焼き魚、味噌汁の順に口に運ぶ。
それらの味はあっさりしているようで、でもほのかに優しく、懐かしい味。
私は一噛みするたびに広がる味わいに、胸の奥から来る何かがあった。
あまりにも変わってしまった。あの時あんな事が起きなければ、この先今の自分は楽しく生きて行けただろうか。今のこの気持ちに辿り着けただろうか。
「どうだ、うまいか?」
その時響いた彼の声に、一つ一つ『命』を噛み締め、コクリと頷いた。
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ーー「いや〜にしても茂ってんな〜」
彼に連れられやって来たのは、『焔魔宮殿』
と呼ばれる大きな館。の前の超馬鹿デカイ門の下で、遥か上の方を眺めていた。
「おーい、鬼火〜」
彼がそう叫んで少しした後、遥か上空から青い炎に包まれた頭蓋骨がフラフラと降りて来た。
そして、その鬼火と呼ばれる妖怪が、カタコトで何か彼に話し、カラカラと笑うように音を鳴らし、門の方を向く。
と、ギィィィィと叫ぶようにひとりでに門が開く。
その門をくぐり抜け、次に目を奪われたのは、広がる緑の空間。
大きな木が生え、天を覆うほどに淡々と伸びており、蔦が館の外壁に意気揚々と着生し、その大木の下に色彩豊かな花々が咲いている。
それらの『命』が飾る風格は、しっかりと古びた館に刻まれていた。
茶色の扉を開けると、中は意外にも綺麗に
清掃されていた。
宮殿というだけあり、やはり優秀な執事がいるのだろう。
それにメイドというのも。
しばらく宮殿内を歩いていくと、奥の方の扉が開いているその部屋から何やら騒がしい声が。
私と彼がその部屋に近づいていき、部屋の明かりの中に入った瞬間だった。
「いっでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
と野太い声が宮殿全体に響き渡る。
その声に肩を上げ、呆れる彼と共に部屋を覗くと、広い空間の天井にまで届くぐらいの砂埃が舞い上がっており、その中からうずくまる鉛色の髪のメガネの青年と、隣で倒れたままの黒と灰色の迷彩服を来た赤髪の女の人。
「アァァァ‼︎小指ィィ、小指ガァぁぁ‼︎」
「ダメです‼︎呉葉が非常に幸せそうな顔して起きません‼︎‼︎」
「なぁぁにやってんだお前ら‼︎」
と二人に寄り添う白髪の美人メイドと、銀髪の青年。
そして、その奥の二階からその人達を見下ろし一人ため息を漏らす、金に所々に黒が混じったショートポニーテールの15歳くらいの女の子がいた。
その女の子は、こちらに気付き、薄笑いで彼に話しかける。
「あら、悠士じゃない。あ、ちょうど良かったわ、ちょっとそこの本の山、あっちの方に移動させてくれない?」
「は?何でオレが」
「いいじゃない。私は埃臭い所は嫌いなの」
「いやそれサボりたいだけだろお前…」
「な、何よなにか文句でもあるの?」
「はぁ…無ぇよ」
すると、その女の子がキリッと鋭い眼差しで見つめて来た。
「そして貴方の後ろに居るのは…」
「ああ、今回はこの件で来たんだ。」
と言うと、自分の後ろに隠れる少女に顔を合わせ、「ほら。」と前に促す。
私は、初対面の人にあまり会ったことがないので、こう言う時に上手く喋れる自身ないのは、致し方無い事なのだが、この場で勇気を振り絞り簡単に挨拶した。
「わ、私は…ゆ、結無と言います。よ、よろしくお願いします…」
少しギクシャクした挨拶になってしまったがそれを聞いた女の子は、ニヤッと笑みを浮かべた矢先、背中からコウモリのような大きな翼を広げ、二階から俊敏に飛び降り、私の前まで近づいて来た。
そして何故か突然顎を引かれ、顔と顔が向き合う。
彼女の黒の瞳の奥の輝きは、憂いを含む優美高妙な人柄を映し出していた。
しばらく彼女に見つめられ、動けないで居ると、彼女が口を開く。
「ふーん…貴女人間ね。」
「え…あ、はい」
「妖怪に対して何か深い感情を抱いている」
「…⁉︎」
「そして貴女から強く感じるこの力…貴女只の人間では無いわね」
「何で…?」
「わかるのよ。色々とね」
そう言ってやっと離れてくれた。
そのまま勢いよく手を叩き、召集を掛ける。
「てな訳で、さぁ、この子に見合う洋服を服部屋から探し出すのよ‼︎夜重、呉葉!」
「え?…ちょ」
「かしこまりました〜」
「はい、ジル様」
「で貴方達はこの大書斎の掃除、頼んだわよ」
「承知」
「ヘイヘーイ」
「んん〜、がってん承知の助…」
「サッとやれや!」
「アダッ」
その三人の女子が結無を連れ、服部屋に入っていった。
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「ーーじゃあ先ずは自己紹介からね」
そして唐突に始まる自己紹介。
「私まだ名乗ってなかったわね。私はジル・ドラヴァ・シャルル。
かの有名な血吸蝙蝠一家の長女。そして私たち焔魔宮殿に住まう組織、『焔魔組』の首領でもあるわ。よろしく頼むわね」
と金の髪をなびかせ、自信満々に胸を張って
自らを名乗る。
Vネックの茶と黒のベストに、両腕まくりしたカッターシャツを着て、膝下までの赤のスカート。
小柄だが、体は引き締まり15歳くらいの若々しい印象を受ける。
また血吸蝙蝠と言う種族だからか、口からちょこっとだけ八重歯が姿を見せている。
「私はこの宮殿でジル様の下、焔魔組での幹部にして執事を務めさせております。
月和 夜重と申します。」
そう言って丁寧な佇まいでお辞儀するその人は、改めて見ると私も目を惹くほどの美人だった。
短くも雪のような真っ白な白髪が神々しく窓から入る日光に照らされ光る。髪型はすごく
ボーイッシュで、もしかしたら一見男子に見えなくもない。
だがそれが逆に彼女の清潔な人柄を感じさせる。
青のカッターシャツに黒のパーカーを腰に巻き、スカートから覗かせる華奢な美脚が露わになっている。
その姿はまさに『羞花閉月』と呼ぶにふさわしい。
「じゃあ次、私は、紅陽 呉葉です。一応戦闘要員ですが、色んなことをさせられて……いや、してます…」
背後から伝わる鋭い視線を感じ、わざわざ言い換える、非常に陽気そうで明るい印象を受けるその女の子は、世にも珍しいサラサラの紅蓮のロングヘアが特徴の妖怪。
焔魔組の妖怪は、家流がそうなのか、ここら辺の妖怪より西洋妖怪が多い。
「おし、じゃあ貴女に似合う洋服は…」
「これなんかどうかしら?」
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三人が部屋に入っていって、15分程度経ち、部屋の整理は二人に任せ一人ガーデンの椅子に腰掛け一息ついていると、奥からジルがやってきた。
「はぁ〜…」
「おお、見つかったのか?服」
「いや、途中で諦めたのよ。あの二人、あの子ばっかりに目が行って、私の話は全く聞いてくれないのよ」
時々見せる彼女のそういう所は結構好きだ。まぁオレの好きと面白いはほぼ同じなんだけど。
そんな彼女はオレの前の椅子に座る。
「大変ですな」
「で、どうするの?あの子、行き当たりがないらしいわよ?」
「うーむ。行き当たりがないなら一時的にオレ等が世話をしなけりゃならないし、またあの子も『力』に惹きつけられたとするならば丁度いい。」
「まぁ世話と言う点はあまり問題無いわね。
彼女の性格上、生まれがいいからか、ちゃんと自分を確立して常識がある。それに、彼女自身に立派な『力』 も持ち合わせてるから」
「便利だな、超音波ってのは。」
「『反響定位』よ。」
しばらく彼女と雑談していると、深紫色のボブショートの女の子が、紫色のダボダボのシャツに水色のセミロングスカートを来た結無と、後ろから何故だかホクホクした女子二人が一緒に部屋から出て来た。
その彼女の服装は、非常に可愛らしい女の子という印象を一番に受ける。
多分若さ故の徳だろう。
「に、似合ってますか…?」
そう言う彼女の表情から、恥じらい、または照れの感情を伺える。
オレはそんな彼女に言うまでもなく、
「超似合ってるぜ!」
「超似合ってるわよ」
と二人して称賛すると、さらに彼女の顔が赤く染まったが、すぐに可愛らしい笑顔を初めて見せてくれた。
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夜。日中、焔魔宮殿の清掃を手伝った。
途中私の能力で、本の山を浮かせて移動した時は妖怪達から猛烈スカウトが掛かったが、
生憎丁重にお断りしておいた。
焔魔宮殿から出て、林の中にある彼の小さな屋敷に帰って来た。
二人で帰りに市馬で買って来た大量の寿司を平らげ、夜の闇の中、唯一光を放つ満月に向かい、縁側に座っていた。
今自分は幸せと感じる。倒れてた所を彼に拾ってもらい、ご飯もいただき、さらには着る服も、優しい妖怪達にも出会えた。
数日前は生きるということなんて忘れてただ絶望の中を走ってただけだった。
満月を見つめていると、私の好きだった孤児院の皆を思い出す。
父も、母も兄も姉も弟も妹も、居なかった。
ただ、血は繋がっていなくとも『家族』と呼べる大切な人達がいた。
私はそれで十分だった。
しかし、その人達はもういない。何処を探しても、追いかけても、嘆いても、もう会えない。
「会いたいよ…」
と呟く。
そんな私を見て、隣に彼が座って来た。
「会いたいか?」
途端、彼女の目に少し期待が溢れる。
「でも残念。一度死んでしまえばもう二度と会えない。ある特殊な場合を除いてね」
と聞いて小さく肩を下ろす彼女。
この世界には少なくとも『霊』がいる。地縛霊、悪霊、善霊、半霊など霊体化した生命もいる。
オレの知り合いにいるし。
すると隣の彼女からひしひしと寂しさが伝わってくる。
「私は…この能力のせいで大切な人を、『家族』を…妖怪に惨殺されました。だから怖いんです。そこから一人逃げて今こうして幸せになってることを、あの人達は恨んでいるじゃないかって。」
今彼女はどうすることもできない寂しさと罪悪感にかられているだろう。
だが生憎、この村を守る役目のオレには『死別』と言うものを何度も味わい、苦しめられてきた。だからか弱い彼女に、オレは話す。
「…その人達はいつでも君を見てる。目には見えなくとも、君がこの世に存在する限り、彼らは永遠に無くならない。その人達が君のことを本当に大切にしていた『家族』なら、君の幸せを心から願うはずだ。だから…」
「君はここに居ていいんだよ。」
その言葉を聞いた途端彼女の目に大粒の涙が溢れ、綺麗に澄んだ水滴は月夜に照らされ彗星の様に落ちていった。
それから数分後、泣き疲れた彼女は、スヤスヤと眠っていた。
そんな彼女を見ながらオレも眠りについた。
「結無お姉ちゃ〜ん」
私達焔魔組一同と、人間の里の子供達が、結無の屋敷を訪れると、彼女は悠士と共に縁側で眠っていた。
「結無お姉ちゃんも悠士お兄ちゃんも寝てる…」
「どうなされますか?」
と夜重が聞く。
私は、子供の様にたわいもなく寝転がる彼女の顔を見て、
「いいわよ、夜までこのままにしておいてあげましょう。こんなに幸せそうに寝られてたら邪魔なんてできないでしょ」
そう言って金の髪をなびかせ、歩いて行く蝙蝠に何処に行くのか尋ねてみると、
「なに、ケーキを買いに行くのよ。だって…」
『彼女に出会った今日という日は、彼女の13回目の誕生日、だからね』
と言った。
はい、今回はこれで終わり。
これからも短編しかり、長編もやって行きたいと思います。
また今度会いましょう、アディオス!