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八話 はーい二人組作ってー


 ネズミさんから聞いた話は僕にとって衝撃的なことであった。


 男が自分の体を売って金を稼ぐ? そんなわけあるか。僕が田舎者だからって馬鹿にしすぎだろと憤る反面、それを完全に否定できない自分がいた。


 たしかに僕の体に価値があるのなら、お姉さんたちに追いかけられていたというのも、なんとなく納得だし、いやらしいお店が立ち並ぶところにいたのをネズミさんに注意されたのも頷ける。

 都会の流行とは変わりやすいものだけど、これほど変わりやすいものなのか。


 僕は変わらない故郷に思いを馳せる。田舎の暮らしは、特に変わらない日々が続くだけだ。村の仕事はもちろん、行事もだ。それが良いか悪いかと聞かれたら、昔のことになったので判断に困る。過ぎ去った昔なんて大抵美化されているものだ。

 楽しかった思い出もあるが、辛かった思い出もあるというものだ。


 陽の光がところどころ穴が空いた教会から差し込んでくる。騒々しい一日が終わり、次の日がやって来たということだ。

 あれが夢だとしたら、どんなに良いことかと思ったが、昨日と違って教会にネズミが住み着き始めたので、夢ではなかったのだろう。


 朝食を済ませて、女神様に行ってきますを言ったあとに、いつも通り斡旋所に行く。なにやら、周りがおかしなことになろうとも、僕の日常が変わるわけがなかった。とりあえず、昨日のお姉さんたちに会わなければ御の字だ。

 警戒心が無いように見えるが、こっちとしても仕事をしなきゃ生活ができないので、斡旋所に向かう他無い。弱者には選択肢は存在しないのだ。


「ちゅう」


 ネズミさんは何処かの屋敷から逃げ出しネズミらしく、見つかったら大変なことになると言っていたので街中では喋らないようにしている。まあ、お伽話であるような、僕だけがネズミの言葉を解せるわけじゃないからね。

 今は腰のポーチに入っており、何かあった時には助けてくれるらしい。昨日の壁抜けみたいなのだろう。


「それにしても……」


 昨日と同じく、斡旋所の中は若い女性たちで賑わっていた。朝からどのクエストをこなすかを相談し合っている様子だ。幸いなことに、昨日のお姉さんたちはいないようなので、安心して依頼がこなせそうだ。


 依頼を受けるために並びながら辺りを見渡して、冒険者たちを見る。だいたいは女性である気がするが、男の人もいるようだ。僕の今の状況は、完全なるハーレムってわけではないらしい。


 けれど、ここにいる男の人たちは、どことなく覇気のようなものが感じられないどころか、冒険者に向いていないんじゃないかという感じの人たちだ。


 具体的に言うと、椅子に座っている太っちょの彼。ぶよぶよした腕を組みながらパーティ募集を呼びかけているようだ。しかし、条件として、ソードファイターやハイウィザードといった上級職に限るとテーブルに貼ってある。さらには年収は1000万で身長は180センチ以上、優しくて言うことを聞いてくれて、将来親の面倒を見なくてもいい長女以外、と書いてある。


 もはや、お見合い会場だ。実際、冒険者同士で結婚するというのは珍しくないので、どうとも言えないが。実際に、婚活として冒険者になる人もいるらしいが、そういう人は実際にやる仕事のキツさとのギャップで辞める人が大半だ。彼にパーティが組めるかは知らないが、組めたとしてもぶよぶよの彼の体ではすぐに辞めるのが関の山だ。


 彼は論外ではあるが、他の男の冒険者は立っているだけで、声をかけられるなんてことがチラホラ見える。そんな光景を見ていると、まるで自分が異世界にでも来たかのような錯覚を受けるが、残念ながらここは現実だ。


 そんなことを考えていたら、既に順番が来ていた。受付の人は昨日と同じ男の人であり、僕は奇妙な安心感を得る。やはりというべきか、予想していたというべきか。


「本日はどのようなお仕事をされますか?」

「今日も西地区のホーンラビットの討伐へ」


 昨日はホーンラビットの雌が取れたことによる喜びによって、途中で切り上げてしまったのだ。今日はしっかりと稼げる分は稼ぎたい。


「パーティを組んでますか?」

「いえ、今日も一人で狩りますが……」

「申し訳ございません。昨日、貴方と同様にソロでホーンラビットを討伐しに行った方が亡くなるということがありましたので、しばらくはソロでの討伐はできないんです」


 斡旋所の受付職員は深々と頭を下げる。なんでもホーンラビットのツノは直撃を受ければ、致命傷になるのだが、ちゃんと血を止めれば案外助かるらしい。昨日亡くなった冒険者は致命傷を受けたまま、仲間がいなかったので、三時間くらい放置されていたとのこと。誰か仲間がいれば治療なり助けを求めるなりができたらしい。


 斡旋所の職員は、一応安全には気を付けているというポーズを取るために、ホーンラビット狩りの際は二人以上のパーティを組むように、西地区の農家から通告されたとのことだ。農家の本音としては、冒険者の死体が畑にあると、ブランドイメージが崩れるとか云々カンヌンなんだろう。


「僕の相棒のネズミ、ミルキィと二人でパーティを組んでいるということは……?」

「駄目です。冒険者に限ります」


 駄目か……。ちなみにネズミさんの名前は適当に考えた。

 こりゃ、誰か適当に誘うしかないな。できることなら、可愛い子か、美人のお姉さんがいいと思うけど、年上は昨日のことがあるから却下。なにより仕事で組むとなると、先輩っぽい人と付き合うのは面倒なんだよ。言葉遣いとか気をつけないとならないし。


 ちなみに男は、僕が男ヒーラーという時点で無理だ。


 さてと……。僕はよく目を凝らして、冒険者たちを見つめる。


 ここで大事なのは、一人の奴を見つけるということだ。パーティを組んでいるところであったら、既にコミュニティが形成されており、僕が馴染み難い可能性が大いにある。

 そういうのに入ると結構キツイぞ。内輪ネタとか振られても反応に困るし、気を遣われているのがシミジミと伝わってくる。しかも、パーティから離れたら、僕の陰口をし合うだなんて精神的に辛すぎる。

 あとは、お金の問題だ。結成されているパーティだとコンビネーションとかを崩されたとかイチャモンを付けられて、お金を引かれる可能性がある。男ヒーラーだから尚更だしな。


 なのでこういうのは、ぼっちを狙うのがオススメだ。一対一のコミュニティならば、こちらが不利になるということもない。会話をするにしても僕しか相手がいないわけだし、お金の相談もそれほど拗れはしないはずだ。もちろん、好きで一人でいるという孤高を気取った人もいるので、そこには注意して観察しなければ。


「うん……?」


 と、あたりを見渡していると、良さそうなぼっちを見つけた。


「……ぁ、ぁの……」

「でさー、アイツの腹筋が割れてて、オカズにしちゃったよ」

「趣味悪いなー。時代は上腕二頭筋だろ」


 僕同様に右往左往しながら、挙動不審な子だ。勇気を振り絞って、適当な人に声をかけようとするも声が小さ過ぎて、誰も気付かない。


 そうそう、こういう子こそ求めていたんだよ。しかも、年下の女の子ときた。これはもう、天が声をかけろと僕に告げているに違いない。


「ちょっといいかい、キミ」

「うほっ、イイ男」

「アタイらと、パーティやらないか?」


 女の子が声をかけていたパーティの人たちが振り返ってきた。いや、キミらじゃない。この人らと組んだら危ない目に遭わされそう。


「キミらじゃなくて、キミだよ」

「はっ、はひゅ! わ、わたしですか!?」


 女の子は、やや上ずった声で返事をする。ところどころ、言葉を噛んでおり、これだけの会話でコミュニケーションが苦手なんだろうなと察することができた。


「ホーンラビット討伐をするんだけど、僕と組んでくれないかな?」

「はひっ、わたしなんかでいいんですか!?」

「キミだから良いんだよ」


 僕がこの女の子を選んだのは、ぼっちだったからというだけではない。

 輝くような黄金色の髪は、戦闘に邪魔にならないようにポニーテールにして纏められている。

 そして、彼女の瞳に宿るエメラルドグリーンの瞳は宝石のよう。

 なによりも特徴的なのは、三角形に尖った耳。


 彼女は、エルフと呼ばれる神秘的な存在であった。


「それとも、駄目だったかな?」

「い、いえ……! よろしくお願いします!」


 森の住人である弓のエキスパートにして、魔法の申し子なエルフと組めば今回の仕事は楽に終わるかもしれないし、もしかしたら彼女とお近づきになれると、その時の僕は思っていた。

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