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五話 夕暮れ時の出来事

 


 換金所でホーンラビット二匹とそれに一割増しした分のお金を持った僕は、さっそく夕飯を食べることにした。ここ最近は、浄化した水と木の根っこくらいしか食べていないので、マトモな食事は久しぶりだ。


 ここは一発、安くて美味しいお店を探してみることにしよう。


 幸いなことに今の時間は夕飯には少し早い。ホーンラビット狩りは、もう少し続ける予定だったけど、トラブルがあったので早々に切り上げてしまったのだ。


 人の往来が絶えない大通りを歩きながら、一人で考えていた。


 それにしても、何かがおかしい気がするのは、僕の気のせいだろうか。今までホーンラビットの雌が大量にここへ来るというのは聞いたことがないし、買取価格が変わったというのも知らされていない。


 しかし、換金所の価格表は昔からそうであったかのように、雄と雌の買取価格が逆転していたわけだ。僕一人を騙すには大掛かりすぎる仕掛けだ。


 うん……逆転……?


「うわっ!」


 考えごとをしながら歩いていたら、誰かにぶつかってしまった。突然の出来事だったので、尻餅をついてしまう。

 ふと顔を上げて見ると、そこには強面の男の人が……。


 やばい……こりゃ、カツアゲコースだな。


「おっと、こっちこそ悪いな。ケガは無いか?」

「い、いえ……大丈夫です。こっちこそ、よそ見をしてすみません」

「いいってことよ。それよりも、本当に怪我は無いか? オレはヒーラーだから怪我があったら、治せるぜ」


 僕以外にも男のヒーラーがいるだなんて驚きだ。まさか、こんなところで同じジョブの人に出会えるだなんて。


「ぼ、僕、男の子だから平気です」

「お、おう……そうか」


 彼の厚意はありがたいが、僕は男なので、同性には治癒魔法は使えない。彼がそのことを知らないのは、違和感があったが、僕が女にでも見えたのか、それとも本当に知らないのかのどちらかだろう。

 両者とも失礼にあたるが、同じヒーラーがいるというのは、嬉しいものだ。


「おい、ジョン。さっさといくぞ」

「そんなところでボサッとしてんじゃねぇぞ」


 声のする方を見ると、そこには珍しい女ソードマン——いや、ソードウーマンが二人というレアな組み合わせだ。


「す、すみません。すぐ行きます! 悪い、それじゃあな」


 巨大の男がソードウーマンの女たちにペコペコしながら、小走りで彼女らの元に戻っていってしまった。


 残された僕はその光景を黙って見ていた。あまりの出来事に脳みそがついていけなくなってしまう。


 男ヒーラーがちゃんとパーティを組めているってことなんだよな……。ソードウーマン二人に男ヒーラーというハーレムパーティっていうことか。理想郷はあっちにあったっていうことか。


 去っていった男ヒーラーには、凄いなという尊敬の念と先を越されて悔しいという嫉妬の念が渦巻いて、ごっちゃになっていた。





 ご飯を食べようにも、先ほどの出来事が信じられなくて、あまり食欲が出なかった。まあ、食費が抑えられたのは良いことだとポジティブに考えよう。お金はあるとはいえ、有限だからな。


 男ヒーラーを自称する男がパーティを組めるというのにも驚いたが、なによりも女冒険者と組めるというのが驚愕すべきことだ。


 女冒険者というのは、数が限りなく少なく、性欲塗れの男冒険者にとって紅一点というだけで価値があるのだ。女ヒーラーや女ウィザードはもちろんのこと、女ファイターやソードウーマン前衛ジョブでも、破格の待遇で受け入れられることが多い。


 その裏に男冒険者の下心が隠れているのは言うまでも無いが、それを承知で雇われる者は多い。強い冒険者パーティに入れば、自分が強くなる機会が多くなるわけだし、技術も盗める。そしてなによりも、女だから安全に、そして比較的楽に稼げるからだ。


 冒険者の強さと稼ぐ金っていうのは比例するものだ。ダンジョンの深くに潜れば潜るほど、希少なアイテムが手に入りやすくなり、儲けられる確率も上がるものだ。


 玉の輿もあり得るかもしれない。実際、婚活として冒険者になる女性もいるわけだ。


 だからこそ、あの男ヒーラーがパーティを組めるのが不思議でならない。


 はっ……! これはまさか……ナデポとかニコポとかいう特に理由もないハーレムってやつじゃないか?


 兄から聞いたおとぎ話だけにしか存在しないものかと思っていたら、本当に存在するとは……。ちなみにナデポっていうのは撫でるだけで逝かせるというもので、ニコポっていうのは目を合わせるだけで対象を惚れさせる催眠術の一種だと記憶している。

 どちらもエッチな特技の一種なので、僕にとって夢のようなスキルである。


 ひょっとしたら、ヒーラーを極めればそうなれるんじゃないか。そう思うことで、明日も頑張れる気がする。


「ちょっと、お兄さん」


 明日への決意を新たにしたところで、僕はお姉さんに声をかけられる。思えば、今は既に遅くなってしまった時間。


 仕事を終えた労働者や、依頼から無事に戻ってきた冒険者たちが、今日一日の締めくくりとして酒場や風俗にいくような時間だ。ここいらは、エッチなお店が結構立ち並んでいるので、こうして客引きが盛んに行われているのだ。


 僕としては、男の子なので興味がないことはないのだが、初めてはやはり可愛い子と同意の上で行いたいものだ。お姉さんもタイプではないわけではないが、僕もまだ選り好みしてもいい年齢である。


「すみません、お金が無いので」


 こういうときは、金が無いというアピールをすれば良い。風俗も商売なので、金が無い奴を相手にはしない。

 大抵は、お金を持っていそうなハゲ親父や汚いおっさんといった、性欲と金を持っていそうな奴を選ぶものだ。


「えっ、そうなの。それじゃあ、ウチで働きなよ。大丈夫、ウチはアットホームで初心者大歓迎な職場だからね」


 しかし、お姉さんは離してくれない。これは、労働者として雇って、給料を全部エッチなことに強制的に使わせる新手のブラックな雇用形態なのか?

 というか、アットホームで初心者大歓迎とか、ブラックの謳い文句すぎる。


「ちょっと、僕じゃ無理ですって!」

「大丈夫、大丈夫。先っちょだけだから、体験的にね」


 それって、先っちょだけで済まないで全部やらされるパターンじゃないか。


 職場体験だと思ったら、強制的に入社させられて、以下同文コースなんて嫌すぎるだろ。


「接客なんて無理ですよ! 離してくださいってば!」

「大丈夫だって、キミにはお客にエッチなサービスをしてもらうだけだから」


 よりによって、同性愛者のアレかよ! それはそれで嫌すぎるんですけど!

 女の子との初体験の前に野郎に掘られるだなんて死んでも嫌だ。


「無理ですよ! 知らない人に抱かれるだなんて!」

「じゃあ、アタシがお兄さんを買ってやんよ」

「は?」


 ネットリと手汗がついた手で僕の手の甲を撫で回すお姉さん。


「こういうとこに来るってことは、そういうのが目的なんだろ?」

「い、いえ……」


 熱っぽい視線を注がれて、僕の体は魔法がかかったかのように膠着する。


「そんなわけ無いだろ……換金所で衆人環視のもとでアレの話をして、スケベじゃないはずないだろ」


 換金所でのことを知っていたということは、このお姉さんは冒険者ってことになる。でも、なんで?


「もちろん、タダなんて言わないさ。そうだな……これくらい出そう」


 お姉さんが指で提示した値段は、ホーンラビットの雌くらいの値段であった。決して安い値段ではないことは確かだ。


「でも僕、お金ありませんよ」

「だから〜! アタシが出すって言ってんだろ。宿屋代は別で!」


 ますます意味が分からない。僕はお姉さんが何を言っているのか、さっぱり理解できなくなっていた。


 まず、よく分からないけど、お姉さんは僕とエッチなことをしたがっているかもしれない。次にお姉さんが僕にお金を払うらしい。そして、お姉さんは女の冒険者。

 うん、さっぱり分からない。けれど、言葉をそのまんま受け取るのは、迂闊なことであるのは確かだ。


 後ろに怖い人がいるかもしれないしね。


「すみません、その話は無かったことに……」

「そうか……仕方ないな……」


 ほっ……良かった。けれど、本当だとしたら、もったいないことをしたかもしれなかったな。


「それじゃあ、実力行使しかないな……」

「えっ?」



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