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三話 ウサギ狩り

 


 西地区へと歩く僕であるが、その道中で、いろいろと今日はおかしいことに気付く。まあ、僕の勘違いかもしれないし、思春期特有の自意識過剰な妄想なのかもしれないから明言はしない。


 保険のために言っておくけど、僕は決してムッツリでもなければ、変態でも無い。そこのところは、承知してもらおう。


「いらっしゃい、今日はリンゴが安いよ〜!」

「おっ、そこの旦那ぁ! 今日もイケてるね!」

「そこの兄ちゃん。安くするから、ウチの野菜を買っていきなよ!」


 なんというか……今日って女の人が多くない?


 いくら自由の街と呼ばれるサマイタであっても、この中央地区の市場通りで女の人が店主をすることは少ない。もちろん、いないとは言わないけど、基本的に商人というのは縁故でやるもので、長男や次男に店を継がせるものだ。女性がなるには、よほど懇意にしているか、実力があるかだ。そう何人も易々となれるものではない。


 けれど、長男が生まれなかった家庭、男性が不幸な事故や病気で亡くなったという家が多いのなら納得か。

 それか、今日は女性を優遇する日だからというのもあるかもしれない。


 どちらにしても、目の前でこうして起こっていることに対して、僕がどうこうすることはできない。ありのままを受け入れるしかないようだ。



 西地区の外壁の外に広がる広大な畑。ここでは、街の食料はもちろんのこと、土壌が豊かであるので、他所へ輸出される作物も育てられている。


 中でも、サマイタの長ネギは絶品だと有名である。農業は儲からないとされているけど、こういう名産とされているのは金になるらしいので、サマイタでは農業に従事している殆どの人が豊かな生活を送っているとのことだ。

 儲からない農作業に一時的に従事していた僕としては、なんとも羨ましい話だったりする。


 そんな中、農家を悩ませているモンスターが出るとのことだ。その名は、ホーンラビット。今回、僕が討伐するモンスターの名だ。別名、ツノウサギとも呼ばれており、その名の通り、ツノが生えたウサギのことだ。


 動きはすばしっこく、捕まえるのは難しい。また、頭が良いので、動物用の罠であっても、簡単に看破されてしまう。仮に捕まえたとしても、力が強いので、動物用の罠では檻から出てしまうとのことだ。

 幸いにして、性格は大人しいのだけど、ある時期になると獰猛になる。


 それは繁殖の時期だ。繁殖期になれば、繁殖のための交尾に備えて食料を盛んに求め始める。彼らの住処である森から山の食料を食い尽くしてしまい、終いにはこの街へと下りてくるのだ。


 そうなると真っ先に来るのは、この西地区の畑だ。ホーンラビットの好物でもあるらしいサマイタネギを求めて、ここに押し寄せてくるのだ。


 当然ながら、ホーンラビットに作物を食われるのを黙って見ている農家ではない。そのために、僕らのような冒険者が必要とされており、僕らも小遣い稼ぎと名を上げるためにここにいるのだ。


 しかし、まあ、こんな街の外れに畑を作るなんてことはせず、外壁の中に畑を作れば、冒険者に金を払わずに済むだろうなんて意見もあったらしい。長期的に見れば良さそうに見える話である。過去に一度、外壁を広げたという事例もあった。


 けれど、ホーンラビットの角は、外壁に傷を付けるのには十分であり、それが何匹もいるものだから、一週間足らずで、外壁が破られてしまったとのことだ。


 さらには、ホーンラビットの肉が上流階級の人たちにとって美味とされており、中でも雌の卵巣は高級食材とされているらしい。


 外壁を壊されて直す損失やホーンラビットで得られる利益を考えたら、外壁で完璧に守るよりも冒険者に狩らせた方が得であると判断した街の者たちは、以降ホーンラビットの討伐を定期的に出すことにしたとのことだ。


 僕としても、こうして誰でもできる仕事として、討伐ができるので助かっている。中には、ホーンラビットの雌を狩って、小金持ちになったという冒険者もいるのだから、もしかしたらという期待もあった。


「はあっ!」

「きゅう!」


 ホーンラビットのツノをロングソードで叩きつけて、気絶させる。かれこれ、ホーンラビット狩りは5回ほどこなしているので、要領というのが分かっているのが幸いだ。


「うおっ!」


 ツノを僕の背中に突き立てた、ウサギをなんとか避けながら、僕は息を整える。


 慣れたといっても、ホーンラビットのツノは石の外壁をも壊すのだ。僕がマトモに食らったら、良くて怪我を負うくらい、悪くて死ぬかもしれない。


 彼らは、繁殖のためにこの街へと遥々来たのだ。生物の最後の役割とも言われている繁殖。死んでも良いという覚悟で僕を襲ってくるのだから、その威力は半端ないものなのだろう。


 けれど、僕も死ぬわけにはいかない。可愛い女の子にモテるまで死ぬわけにはいかないのだ。


 ホーンラビットが交尾のために僕を倒そうとするように、僕もホーンラビットを倒すわけだ。どちらが上とかは関係ない。強いて言うならば、戦って勝った方が上という生物の根幹に基づくところにあるんだろう。


「ふぅ、はぁ——」


 木に背中をつけて、ホーンラビットを待ち構える。逃げられる場所が少なくなるものの、背後からの攻撃を受ける確率が低くなり、単純な小動物の一直線上の攻撃ならば、受け止めるのは難しくない。


「甘いっ!」


 ロングソードとツノがぶつかった瞬間、カキンと金属音がなるものの、なんとかホーンラビットの攻撃を止める。

 そして、やり慣れた動作で、攻撃のモーションに変えて、ホーンラビットのツノを思いっきり剣で殴りつけた。


 ロングソードの刃は全くと言っても良いくらいに斬れない。剣というよりかは鉄の棒みたいなものだ。ソードマンならば、斬ることも可能であるが、僕のようなヒーラーでは殴るのが精一杯だった。


「はぁっ、はぁっ……」


 ホーンラビットの弱点であるツノに強い衝撃を与えたことで、なんとか倒すことができた。今のところは、二匹だけだけど、疲れた状態で続けるほど愚かではない。

 ジョブを手に入れた冒険者なら、これくらいなんてこともないが、ヒーラーなので体力の加護は殆どないわけだ。ここで休むのが賢い選択だろう。


「あれ?」


 二匹のホーンラビットを袋に入れる途中、とある違和感があった。ホーンラビットの股間に雄の証といえるアレが無いのだ。

 初めて見たときはウサギにしてはデカイなとか思っていたので、印象にあるのは覚えている。


 少し弄ってみてもアレが無かったので、たぶんであるが雌の可能性が高い。雄に比べれば、雌は10倍の価値があるので大儲けだ。

 しかも、それが二匹ともだ。いつもの20倍の儲けが出たことになる。


 これも日頃、いいことをしていた恩恵なのだろう。神様っていうのは、きっと誰にでも平等でいてくれるに違いない。


 僕は珍しく上機嫌となり、故郷の歌を鼻歌で演奏しながら、斡旋所の換金場へ向かうことにした。

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