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二話 冒険者の朝は早い

 

 次の日、僕は寂れた教会から差し込む光を浴びて、朝になったことに気がついた。相変わらずの寂れた風景で、埃が光を反射して舞っていた。


 冒険者の朝は早い。身体が資本であるので、体調管理が必須である。ちょっとしたことで身体を壊したら元も子もないので、僕は生活リズムというものを大事にしている。


 教会の外れにある井戸から水を汲んでみると、寂れているだけあって水が汚い。しかし、ヒーラーの魔法ならば、水を綺麗にすることが可能であったりする。


「『ピュリフィ』!」


 苔が生えた井戸水は緑色の汚らしい色から、みるみるうちに透明に変わっていく。ヒーラーは傷を癒すことができるだけではなく、物質も再生することができるのだ。意外と知られていない事実だったりする。


 まあ、冒険者って結構ワイルドな人が多いから、喉が乾けば泥水でも平気で飲んじゃうんだけどね。

 それに、浄化した水の味はかなり落ちる。具体的に言うと、薬草とポーションを混ぜ合わせたような味だ。泥水よりも身体に害が無いと知らなければ、飲みたくもないレベルだったりする。


「いただきます」


 クソまずい水と教会の畑から収穫できたイモという木の根っこを食べることにした。僕の故郷では、一般家庭で出される食材であるらしいけど、サマイタでは雑草と同じゴミとして扱われる。どうやら、ここでは食べられないとされているらしい。

 そのおかげでこの畑が浮浪者から狙われないんだけどね。

 味は、故郷の味という感じがして、吐きそうなくらいの美味だ。思わず気絶してしまいそうになる。しかし、腹は膨れるわけだし、先立つものが無い冒険者にはありがたい食事だ。


 有名な冒険者だと、水の代わりに高級なワインを飲んで、木の根っこの代わりに黄金色のパンが出るらしい。

 しかも、美女美少女とあったかいベッドのある宿屋で、毎晩熱い夜を過ごしていると兄から聞いた。なんとも羨ましい話だ。


 けど、僕には女神様がいる。女神様は、この教会で一人、僕のことを待っているし、いつも微笑んでいてくれる。酒場で暴力を振るってきた女冒険者と違って、殴ってこないし、暴言も吐かない。抱きしめると体温が無いのが玉に瑕であるが、それ以外は理想の女性なのだ。


「それじゃあ、行ってきますね」


 僕は女神様に手を振って、今日の仕事を取ってくることにした。



 先ほども述べたけど、冒険者というのは身体が資本の仕事だ。普通の仕事と違って、ちょっとしたことで大怪我に繋がるかもしれないというリスクがあるが、それでも多少無理してでもお金を稼がなければならない。


 僕は仲間もいない底辺冒険者であるが、一年に稼いだお金は村の農作業をしている人たちに比べれば多いはずだ。けれど、それだけでは足りない。


 今はまだ身体も丈夫で、無理をしても動かせるわけなのだが、歳を重ねていけば、今と同じように仕事をするのは難しいだろう。


 冒険者の引退は、30歳前後と言われている。人によってよりけりであるが、身体が衰えてくると、ジョブの加護も弱くなっていくのだ。


 そうなってしまうと、僕と同じくらい使えなくなるわけだから、引退してしまう人が大勢いるのだ。その場合、冒険者として稼いだ蓄えが無いと、その後の人生がキツくなる。


 何かのスキルを持っている人ならともかく、ほとんどの冒険者は冒険者としてしか生きていないのだ。農作業をするにも経験がなく、職人も技術が無いから今からなるのには厳しいものがある。


 とにかく歳を食うと、職が無いのだ。なので、若いうちから稼いでおくというのが、賢い冒険者の生き方なのである。


 僕もそのことを胆に銘じて冒険者をしている。


 斡旋所に着くと、多くの冒険者によって賑わっていた。サマイタの地下にはダンジョンがあるわけなのだけど、新人の冒険者はすぐに潜ることはできない。一応、街の意向として死人をバンバン出さない安全のためというのが新人にダンジョンへ潜らせない理由であるらしい。

 僕もダンジョンに潜ることができない新人である。


 ダンジョンに潜るためには、二通りの方法がある。一つ目は、ジョブを手に入れた後に『ダンジョン許可証』を持ったパーティに入れてもらうこと。こちらの方はかなり一般的な方法である。

 そして二つ目は、実績を積んで、この街の議会にダンジョン許可証を発行してもらうことだ。こちらの方は、僕のようなパーティが組めない人間であっても実力さえあればダンジョンに潜ることができるのだ。


 そのためには、斡旋所で地道に依頼を受けてこなしていくしかない。早い人だと一月程度で許可証が貰えるが、遅い人だと一生かけても手に入れることはできない。要は実力さえあればということだ。


 パーティも組めない男ヒーラーだけど、僕だって男だ。一生懸命やれば、きっといつか立派な冒険者になれるはずだ。


 僕は冒険者の列に並んで、今日の依頼を探すことにした。


 今日は珍しく女性の冒険者が多い気がする。女性冒険者は、どこかのパーティに入れられているというのが多いので、ここにいるのは珍しいわけだ。まあ、駆け出しの冒険者は、ジョブが無いから、パーティに入れられていないという場合もあるので、異常事態というわけじゃ無いんだけどね。


 やがて、僕の順番がやってきた。


「本日は、どのような仕事をしますか?」


 斡旋所にいるのは、男の受付ばかりだ。いつもなら、女の人の仕事といって、受付には女の人を置いているらしいのだけど、今日は珍しい。いつもの人は、風邪か何かなのだろうか。


「今日は、西地区のホーンラビットの討伐にします」

「パーティなどのお連れ様はいらっしゃいますか?」

「いえ、一人ですけど……」

「えっ、お一人ですか?」


 いつもの受付の人だったら、「あっ、お一人ですよね。頑張ってくださいね。ゲラゲラ」くらいで済む手続きなのに、今日はやけに突っ込んでくるな……。


「失礼ですが、冒険者カードを見せて頂けますか?」


 冒険者カードとは、斡旋所で誰でも作ることができるカードのことで、主に名前と性別、それとジョブが刻まれている。基本的に偽造ができないので、パーティを組む際には見せるというのが暗黙の了解だ。


「男のヒーラーですか……」


 な、なんなんだよ……。これで何回、馬鹿にされたか分からないんだぞ。


 しかし、受付の男は僕を馬鹿にした様子などはなく、ただ疑問に思っているだけのように感じられた。


「本当に、ホーンラビットの討伐を一人でやるおつもりですか?」

「ええ、そうですが?」


 やけに食いつくな。討伐任務なら何回もやっているわけだから、あっさりと依頼手続きが済むと思ったのに。


「分かりました。一応、手続きをしておきます。ですが、無理は決してなさらないでくださいね」

「えっ、あっ……はい」


 僕にこんな言葉をかけてくれる人は、この街ではいなかったのに……。意外といい人なんだな。少なくとも、嫌みとか皮肉には聞こえなかった。


 しかし、なんとなく変な気がする。僕が人に心配をかけられたことが無いというものなのだろうか。それとは別に違和感みたいなのが僕の中にあった。


 それはそれとして、今は仕事のことだな。僕は、ホーンラビットを討伐しに行くために、西地区へと歩むことにした。

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