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武器屋へ


 

 サマイタは大きく東西南北中央の五つの区に分かれており、それぞれ西が畑が多い農業地区、東が工業に勤しむ者たちが集まる工業地区、南は定食屋や宿屋、それに武器屋が立ち並ぶ商業地区、北はサマイタに住む者たちが集まる住宅地区。

 そして、中央はそれらが集まってカオスな感じになっており、一般的には市場地区なんて言われている。だいたい中央に行けば、何でもあるというのはサマイタの人なら誰もが知っている。

 ちなみに僕の住む教会は南地区の端にあり、斡旋所は中央にある。いつもはこの二つの地区を往復しているのだ。


「武器を新調したい……」


 教会に帰ってきた僕は寝転びながら一人呟く。僕の呟きに対して、女神様はいつも通り微笑んでいただけであった。


「どうしたんだい、アンさん?」


 一人だと思っていたら、呟きを返す一人の声が耳に入る。懐からモゾモゾと顔を出してきたそれは一匹のネズミさんであった。

 そういえば、エステルと話していたときも、彼が側にいたのを忘れていた。美少女との会話とは、そんなにも心踊るものであったようだ。


「いや、いつまでもロングソード一本で食べていくにはキツイんだよ。それに、お金が少し溜まってきたから、そろそろ武器を新調する良い機会かもね」


 僕のロングソードは冒険者になってから、借金をして買ったもので愛着はあるんだけど、これ一本で一流の冒険者になるには無理がある。

 そもそも、このロングソード……剣というよりも鉄の塊みたいなもので、重いし、斬れないと色々と不便なのだ。ホーンラビット狩りの時も叩き潰すというのが主流で、剣というよりも鈍器の方がしっくりくる。


「まあ、そうだろな。アンさんの剣、ボロボロじゃないか」


 鈍器として使っていたせいか、剣の刃先は丸くなっており、刀身もボロボロだ。これはこれで斬れそうな気もするが、戦闘中にポッキリ折れてしまう可能性もある。


 冒険者にとって武器とは大切な生命線の一つだ。戦闘中に武器が壊れでもしたら、モンスターにやられてしまうのはもちろんのこと、基本的に武器に頼らなければならないので頼りの綱が切れてしまうことにもなる。物理的にも精神的にも大切なものなのだ。


 中には、武器を頼りにしないで素手一つで闘う人もいることはいるが、そういう人は最初から武器を頼りにしないだけの実力と物怖じしない強い精神力があるので僕にはできそうもない。ホーンラビットのツノを素手で殴ったら、突き刺さるくらいな柔な手じゃ、手に穴が開くのがオチだ。右手が恋人どころか、ホールなんて笑えない。


「とはいえ……どこで買えば良いか……」


 武器自体を買うことも大切だけど、どこで武器を買うかも重要なことだ。適当な店で、新品っぽいからとか安いからという理由だけで買ってしまうと、あとから取り返しのつかないことになる可能性がある。

 例えば、戦闘中に武器が壊れるなんてものは当たり前で、中には呪われた武器なんてものもあり、四六時中装備が外せなくなってしまう場合もある。酷い場合だと、呪いを外す教会とグルになって金儲けをする武器屋なんてのもいるから武器屋選びは慎重にしなければならない。


「ネズミさん、良い武器屋知らない?」

「うーん、オイラの知っている限りだとアンさんでも分かる有名どころしか知らないな」


 サマイタの武器屋だと、『ニーベルング』や『ジークフリート』なんかが冒険者のなかでは有名だ。鍛治ギルドの職人が集まって、日々作品を競い合いながら売っていくものだから折り紙つきの質だ。一流の冒険者ならば、誰もが利用している店だろう。

 ただ、その店は会員制となっており、冒険者たちが組織的に集まるギルドによって占有されているので、下っ端冒険者である僕が入れるわけがなかった。


「だいたい、オイラくらいセクシーなネズミとなると、武器なんて無くても美しさでなんとかなるさ」


 よくよく考えてみると、ネズミがチーズよりも鉄の方が溶けてそうな武器屋なんて入るわけないよな。


「というか、アンさんのお仲間にエルフがいるから、彼女に聞くのが一番じゃない?」


 そういえばそうだ。女の子ということで忘れていたけど、エステルも冒険者なんだから良い武器屋の一軒や二軒くらい知っているかもしれない。それに、会員制で僕では買えなくても、エステルがそこの会員制であるのなら、買える可能性は大だ。灯台下暗しとはこのことだな。


 それにだ。これを名目にエステルと一緒に出掛けられるのだから一石二鳥だ。ネズミのアイディアにしては良いじゃないか。


 そうと決まれば明日から行動に移すことにしよう。善は急げっていうものの、エステルのいるところ知らないんだもん。



 次の日、斡旋所に行くとそこにはエステルの姿があった。パーティは組んだものの、待ち合わせ場所を決めてなかったし、どこの宿屋にいるかも知らなかったので、どうしようかと思ったけど、杞憂だったようだ。


「お、おはようございます、マイカさん!」

「あ、うん、おはよう」


 朝だというのに深夜のテンションで挨拶されたので、若干引き気味になりながらもなんとか答える。


 今の時刻はだいたい朝の七時くらい。だいたいこの時間に来るかなと早めに来たつもりだったんだけど、エステルの方が早かったようだ。


「早いね。何時くらいに来たの?」

「えっと……マイカさんを待たせないようにと五時くらいには……」


 早いだろ。この時間だと斡旋所が開いてないので、普通の冒険者ならば来ない時間帯だ。こんな時間に来るのは、レアな仕事が来そうなくらいの時で、二度寝しようかなと思うくらいである。

 早い時間からエステルを待たせてしまって、申し訳ないと思うほどだ。


「ごめんね、もう少し早く来れば良かったよ」

「い、いえ……初めてですから……嬉しくて、早く来ちゃっただけですから……」


 僕がエステルの初めての男か……悪くない。正確には初めて正式にパーティが組めたのは初めてという意味なのだろうが、そこのところは気にしない。


 しかし、デートではないとはいえ、女の子を待たせるのは印象が悪い。それに、今日は武器屋に連れて行ってもらうお願いをするのだから、あまり好感度を下げないようにしなければ。


「あー、いや……僕の方こそ早く来れば良かったよ。昼に何かご馳走するよ」

「本当ですか!? 一緒にご飯食べてくれるなんて!」


 喜び方が若干おかしいような気もするが、女の子って良くわからないところがあるって兄が言ってたし、そういうものなんだろう。

 それとも、よほどお腹空いていたのかな?


「ところで、エステル。今日は少し出掛けたいところがあるだけど、付き合ってくれないかな」

「はひゅっ、ま、マジですか」


 目を大きく開けて僕を見つめるエステル。出掛けたいと言っただけでこんな反応をされるとは思ってもみなかった。


「あー、嫌なら別に良いんだ。僕一人で適当に散策するよ。お昼の件なら明日にでも……」

「あっ、いえ、嫌じゃないです! むしろ、ウェルカムバッチコイです! さあ、服屋でもレストランでもホテルでも私の泊まっている宿屋でも、どこでも私は付いて行きます!」

「あっはい」


 気合の入った声に思わず物怖じしてしまいそうになる。ホテルと宿屋同じじゃないの? まあ、これから行くのはそのどれでも無いので、どうでも良いんだけど。


「それじゃあ、良い武器屋知らない?」

「武器屋ですね? マイカさんに似合いそうな武器といえば……鞭か荒縄ってところですから……」

「剣ね。剣をお願いします」


 鞭と荒縄が似合う冒険者ってどこの世界にいるんだよ。

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